時代劇専門チャンネルは、〝時代劇の灯を消すな〟をスローガンに、2011年の第1作となる「鬼平外伝 夜兎の角右衛門」以来、〝本格的な〟時代劇作品として数々のオリジナル時代劇を制作・放送してきている。いずれも、時代劇のスタンダードともいえる〝義理人情〟の世界を描いた作品である。開局20周年の節目を迎えた翌年の2019年、〝次の20年を見据えて〟藤沢周平が犯罪という人間のダークサイドに切り込んだ傑作サスペンス時代小説を映像化した。待望の映像化と言われた「闇の歯車」である。監督は劇場版「鬼平犯科帳 血闘」を手がけた、令和の日本で最も多く時代劇を手がける監督・山下智彦だった。余談だが、山下監督の父は名匠・山下耕作監督で、『関の彌太ッぺ』では優しさと情感をにじませ、『博奕打ち 総長賭博』では悲劇美を描いて絶賛された。山下智彦監督もまた、大胆にして繊細な演出で人間の闇に切り込んだ。「闇の歯車」は時代劇専門チャンネルでの放送に先がけて全国5大都市を中心に、期間限定劇場上映を実施した。これは2019年当時、新しい試みであった。
同年には、杉田成道と仲代達矢が「果し合い」以来となるタッグを組み、京都の熟練のスタッフが再結集した史上初の8K撮影による時代劇巨篇「帰郷」が制作された。老渡世人の懺悔と贖罪、そしてかすかな希望に、静かに、だが熱く燃える心の炎を描いた藤沢周平ならではの股旅もの。第32回東京国際映画祭で特別上映作品として紹介され、2020年1月17日の劇場上映に続き、2月8日に時代劇専門チャンネルで放送された。
オリジナル時代劇の宮川朋之エグゼクティブ・プロデューサーが、すべてのスタッフに、「迷ったら挑戦するほうを選んでほしい」と思いを伝えるのを聞いたことがある。そこからは、〝時代劇〟、そして〝京都の撮影所〟文化を残していかなければならないという、切実な思いを感じとることができ、その思いは、次世代の作り手たちにもしっかりと受け継がれていることが、オリジナル時代劇の映像から伝わってくる。
人気という俳優の側面だけに頼らない、〝本格〟を表出できる俳優たちの芝居は、観る者の心に真っ直ぐに響いてくる。だからこそ、しがらみの中でもがき、一生懸命生きようとするとき、人の心が動き出すという藤沢周平のまなざしというものが見えてくるのである。下級武士を題材にした〝武家もの〟、庶民の人生を描いた〝市井もの〟、いずれも人々の切なさや、儚さを描く藤沢周平の世界観を紡ぎ出し、日本人の心の琴線に触れる佳作である。
オリジナル時代劇には、すべての登場人物の人生を感じさせてくれる本・演出・芝居の三位一体の魅力がある。