ジャンルを定めない公演
こそが明治座の伝統
明治座のある日本橋浜町は、近代的な高層ビルに古くから残る店舗や公園・緑道が混在する隅田川沿いの下町。明治時代に花街として栄えたという面影は、関東大震災や東京大空襲で消失してしまったが、隣接する人形町に比べ静かなたたずまいも残され、古き良き伝統を受け継ぎながら、新しい街づくりが進められている。現存する近代的なオフィスビルに生まれ変わった1993(平成5)年以降も、明治座では北大路欣也、里見浩太朗、加藤剛、梅沢富美男、山本陽子、三田佳子、北島三郎、細川たかし、五木ひろし、小林幸子、石川さゆり、坂本冬美、氷川きよし、志村けん、コロッケら、年配層から人気の高い座長公演を定着化させて、安定した運営を続けてきた。その一方で、若者にアピールする演目の発掘にも積極的に取り組んでいる。
上川隆也主演の『燃えよ剣』(2004)や『魔界転生』(18)、福士誠治主演の『蝉しぐれ』(08)、米倉涼子主演の『黒革の手帖』(09)、内山理名主演の『天璋院篤姫』(10)、アイドルグループ「ももいろクローバーZ」の一座公演(19)と座長の年齢を大幅に引き下げた演目や、日本を代表する文化に成長したポップカルチャーの漫画を原作とした舞台にも挑戦している。16歳で主役を張った黒木メイサの『あずみ』(05)、ミュージカル界のスター・中川晃教主演の『銀河鉄道999』(18)、藤原紀香主演の『サザエさん』(19)、ジャニーズJr.原嘉孝主演の『両国花錦闘士(りょうごくおしゃれりきし)』(20)など、時代のニーズに沿って新しい観客層を掘り起こしてきた。2021年には明治座初の東宝製作によるブロードウェイ・ミュージカル『エニシング・ゴーズ』公演(紅ゆずる主演)を8月に予定している。
伝統と革新。2年後の2023年には、前身となる喜昇座開業から数えて150周年のメモリアル・イヤーを迎える。近くプロジェクト・チームを立ち上げ、本格的に始動するという。実に5度に及ぶ火災による劇場の消失と再建を乗り越えて不死鳥のように蘇ってきた明治座が、コロナ禍後の150周年をどんな風に迎えるのだろうか。期待とともに見届けたい。
すぎやま ひろむ
1957年、静岡市生まれ。81年に読売新聞社入社。芸能部記者、文化部デスクとして30年間にわたり演劇情報や劇評の執筆、読売演劇大賞の運営などを担当。2017年に読売新聞社を退社し演劇ジャーナリストとして「読売新聞」「テアトロ」「join」などで原稿を執筆。公益社団法人・日本劇団協議会理事。読売演劇大賞、ハヤカワ「悲劇喜劇」賞、日本照明家協会賞の選考委員、共著に『芸談』(朋興社)、『唱歌・童謡ものがたり』(岩波書店)など。