映画『オットーという男』の発端は、2012年、スウェーデンの人気ブロガー、フレドリック・バックマンの処女小説『幸せなひとりぼっち』(原題:A Man Called Ove)。スウェーデン国内で80万部の大ベストセラーとなって2015年映画化されても興行収入1位の爆発的にヒットした。2017年米・アカデミー賞外国語映画賞を含め2部門でノミネートされたというのだから、プロデューサーのフレドリク・ヴィークストレム・ニカストロがハリウッド版を企画し、すでにスウェーデン映画を観て惚れ込んでいたAmerica’s Dad(アメリカのパパ)と称されるトム・ハンクスと手を組んだという次第。
「人生何が起こるか分からない、しかし、捨てたもんじゃない…」と、試写鑑賞後の正直な納得感に浸った。
町一番の嫌われ者、というキャッチ・コピーにどんな悪者なのかタチの悪いならず者なのかと先入観を与えるが、ちょっと待て、みなに愛されている名優トム・ハンクスが演じている主人公オットーなのだ。そう、男はつらいよ、渥美清のフーテンの車寅次郎のように葛飾柴又町内では鼻つまみ者だが、どこか憎めない生き方のヘタな男なのだと思わせはしないか。
オットーは、真っ正直に〝正しいやり方〟を貫けば貫くほど世間から冷ややかな目を向けられる。近所の無断駐車は許せないしゴミの回収箱の仕分けにこだわり、自転車の放置なども見捨てられない。ルール(規則)を守れない人間はバカだ、クズだと口うるさく攻撃してしまう。曲がったことが許されず見て見ぬふりができないオットー。
しかし、彼は最愛の妻に先立たれ孤独な老人だった。退職という区切りを迎え、もうルーティンしかない日常が進むうちに、妻を追って自らの人生にピリオドを打つことばかり考えている。そんな日常が、向かいの家に引っ越してきた家族と触れ合うことで、一変してしまうのだった…。一度は、自ら首に縄を巻き付け、ライフルを自分に向けた爺さんが、この底抜けに明るい家族と隣人たちと力を合わせて理不尽な不動産屋を駆逐してしまう痛快な展開もあり、町一番の嫌われ者がみなに愛さる存在になっていく…。
若き日のオットーに、トム・ハンクスの息子トルーマン・ハンクスが映画初出演し、歌手で妻のリタ・ウィルソンがプロデュース、挿入歌も歌う。トム・ハンクス ファミリーで取り組んだ『オットーという男』、見逃せないハートフルなドラマだ。配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
『オットーという男』は、3月10日(金)より全国の映画館で公開