ホテル雅叙園東京の東京都指定有形文化財「百段階段」をご覧になったことがある方はその装飾の豪華さに目を奪われ、この世のものとは思えない世界に迷い込んだ思いがしたのではないだろうか。〝昭和の竜宮城〟と呼ばれていることも合点する。
石川県の生まれで、丁稚奉公から実業家として成功した創業者の細川力蔵は、東京芝浦にあった自宅を改築し室内の絵画を昭和初期のトップ画家に揮毫を依頼した「芝浦雅叙園」をつくった。芝浦が手狭になったことから、1931年(昭和6)目黒の土地を購入、目黒雅叙園をオープンした。
そして1935年(昭和10)木造建築で宴会のための7つの和室が、99段の長い廊下でつながれた「百段階段」が完成。6つの宴会場は、昭和初期の屈指の画家たちの揮毫により、その画家たちの名前にちなんで「十畝(じっぽ)の間」「漁樵(ぎょしょう)の間」「草丘(そうきゅう)の間」「静水(せいすい)の間」「星光(せいこう)の間」「清方(きよかた)の間」と命名され、99段目につながる松岡映久門下による天井画の部屋は「頂上(ちょうじょう)の間」と名付けられている。いずれも床柱や天井、壁面、ガラス窓にいたるまで贅を凝らしたもので、伝統的な美意識の最高到達点を示すものとされている。2009年(平成21)3月、東京都の有形文化財に指定され、現在は趣向を凝らした企画展が年5、6回開催され、一般公開されている。
3月25日(土)からは、企画展「大正ロマン×百段階段 ~文豪が誘うノスタルジックの世界~」が開催されている。谷崎潤一郎、太宰治など、文豪が紡いだ短編小説の世界を現代の人気イラストレーターが独自の感性で表現する「乙女の本棚」(立東舎)とのコラボレーションが実現したものである。
たとえば、萩原朔太郎の短編小説『猫町』の世界は、荒木十畝による四季の花鳥画が描かれた部屋「十畝の間」で、イラストレーターの「しきみ」とのコラボにより構成されている。道に迷った「私」がたどりつく町は、前半は「華やかなかわいらしい町」のイメージで、後半は猫の大集団「猫町」の世界が広がる。また、「漁樵の間」の室内はすべて純金箔、純金泥、純金砂子で仕上げられ、中国の漁師と樵の問答の一場面が施された精巧な彫刻が見ものだが、ここでは中島敦の短編小説『山月記』をイラストレーターの「ねこ助」とコラボし独特の世界を演出している。
さらに、電子楽器テルミンを操るヨダタケシによる各部屋のBGMも演出に一役買っている。各部屋には大正ロマンを演出する衣裳や、ステンドグラス、家具調度や置物なども愉しむことができる展示となっている。
また、「大正ロマン×着物ランチ」では、着物や小物のレンタルと着付けがセットで用意され、ハイカラな装いで館内のレストランの食事を愉しむことができる連動企画などもある。
「大正ロマン×百段階段~文豪が誘うノスタルジックの世界~」は、3月25日(土)~6月11日(日)会期中無休。11:00 ~18:00(最終入館17:30) 入場料:平日一般1,200円 学生600円/土日祝一般1,500円 学生800円 その他、ギャラリートーク付特別見学チケットなどもある。
ホテル雅叙園東京:〔住〕東京都目黒区下目黒1丁目8−1