1923年、大正12年生まれの著名人というと、作家の池波正太郎、池宮彰一郎、司馬遼太郎、詩人の加島祥造、俳優の船越英二、金子信雄、三國連太郎、西村晃、漫才師の鳳啓助、内海桂子、棋士の大山康晴、画家の山下清らの名前があがるが、戦後日本を代表する作家の遠藤周作もそのうちの一人である。
遠藤周作は1923年東京に生まれ、12歳の時にカトリックの洗礼を受けた。1955年「白い人」で芥川賞を受賞。その後『海と毒薬』『沈黙』『死海のほとり』『侍』『深い河』など、話題作を次々に発表し、純文学だけでなく『女の一生』などの大衆文芸作品や、『王妃マリー・アントワネット』など娯楽性に富んだ歴史小説、さらに狐狸庵(こりあん)ものと呼ばれる軽妙なエッセイなど、多方面に著作を残した国民的作家である。1996年に73歳で帰らぬ人となったが、現在でも多くのファンに愛され、新たな読者も増えている。
特に、遠藤はカトリック作家として日本人とキリスト教の問題を深く追求し、代表作の一つ『沈黙』は2016年ハリウッドで映画化もされ、国内にみならず海外でも注目されている。
さらに、執筆の傍ら、自ら座長となり素人劇団「樹座(きざ)」や父親コーラスクラブ「コール・パパス」なども立ち上げ、人生を楽しみ、心豊かに生きることを実践した。常に人生の在り方を問い続け、医療現場のケア向上を目指す「心あたたかな医療」キャンペーンといった社会活動も積極的に行ったのである。
そんな遠藤周作の人となりや作品を知るべく現在、長野県の軽井沢高原文庫では、夏季特別展「生誕100年 遠藤周作展 『沈黙』から『深い河』まで」が開催されている。
遠藤と軽井沢のつながりは、慶応大予科時代に、学生寮の舎監を務めていた哲学者・吉満義彦に堀辰雄を紹介され、信濃追分で療養中の堀を度々訪ねるようになったことからだった。1958年からは軽井沢に別荘を借り、1968年からは新築した別荘で毎年夏には軽井沢で執筆活動を続けたのである。
遠藤は、「軽井沢は人生で、東京は生活」と語り、親しい文学仲間の北杜夫、矢代静一、大原富枝、加賀乙彦らと交遊を深めた。本展では遠藤の主要作品や軽井沢との関わりを中心に、自筆原稿や創作ノート、書簡、絵画、愛用品など関係資料約200点が展示される。
また、8月5日(土)には、作家でエッセイストの阿川佐和子さん「遠藤周作さんの思い出」、8月19日(土)には映画監督・俳優の塚本晋也さん「映画『沈黙』での経験を語る」と題して講演会が予定されている。
軽井沢高原文庫は、浅間山の眺望のすばらしい塩沢湖畔に1985年(昭和60)8月に開館した。敷地内には堀辰雄が愛した山荘を旧軽井沢から移築し、 内部を公開しているほか、有島武郎が情死した別荘“浄月庵”を移築、明治末期の重厚な別荘内部も観覧できる。 館周囲はカラマツ、アカシア、ハルニレ、コブシ、ウワミズザク ラなどの木々が茂り、また多くの高原の野の花が自生しており、四季折々に変化する花 や木々から、自然の息吹を存分に感じられる。アクセスは、JR軽井沢駅から車で約10分。会期は、7月15日(土)~10月1日(日)会期中無休。