一人の女性デザイナーが、新しいファッション・ブランドを立ち上げようと決意した。それはこともあろうに、猛スピードで次々と新作を発表し、大量生産、大量消費、大量廃棄が当たり前のファッション業界とは相反するサステナビリティの概念を受け容れたブランド〈No Frills(飾りはいらない)〉コレクションの立ち上げだった。
彼女の名は、エイミー・パウニー。イギリスのラグジュアリー・ブランド〈Mother of Pearl〉(以下、MOP)のクリエイティブ・ディレクターだ。彼女は、2017年4月、英国ファッション協議会とVOGUE誌の英国最優秀新人デザイナー賞に選ばれ、何と10万ポンドの賞金を獲得。その資金を元に〈No Frills〉によってMOPに大変革をもたらそうと事を起こすのだ。エイミーは地球環境にとって最も悪影響を及ぼしているのは、自ら身を置いているファッション業界であることに気づいていた、というより12年前キングストン大学の卒業制作のテーマを、持続可能なエコ素材のニットを発表し教授たちを当惑させたほど。環境活動家の両親のもとで育ったエイミーは、サステナブルの理念を実践してきているのだ。
エイミーが直面していたファッション業界の現実はあまりにも衝撃的だ。
・1980年代と比較して、人々は3倍以上の服を購入。
・毎年、千億もの服が作られ、その5分の3が、購入した年に捨てられる。
・ファッション業界を国に例えると、その二酸化炭素排出量は、中国、アメリカに次いで世界第3位。
・デニムパンツ1本を作るために使う水の量1500ℓは、1人の人間が飲む2年分の水に値する。
・海洋マイクロ・プラスチックごみの35%が、合成素材の衣類の洗濯が原因。
・縫製工場の労働者で、生活に十分な賃金を稼げる人は、僅か2%。
・毎年推定250万人の児童が綿花の収穫作業に従事する。
映画は、1枚のコットンシャツの〝本当のコスト〟を二酸化炭素排出量や使用する水の量に置さ換え、私たちが気づかない地球の今と、ファッションにまつわる驚きの真実をわかりやすく伝えていく。観客は、その驚きの事実だけでなく、ビジュアライズされた説明に改めて二酸化炭素排出量への危機感を覚えるだろう。
それにしても、サステナブルなブランドの立ち上げには様々な困難が立ちはだかる。理想の素材を求め、紡績工場を探し回り、羊毛工場の排水処理にまで目を向ける。オーストリア、ウルグアイ、ペルーにまで足を運ぶエイミーとチーム。しかし、「ファッションを楽しみながら持続可能な未来を創る」という相容れない2つの考えを両立させようとするエイミーの信念は、揺るぎないものだった。MOPのようなラグジュアリー・ブランドが変わらなければ、業界全体のサステナブルへの変化は加速しない。エイミーが発表したNo Frillsコレクションは、瞬く間に業界を席巻し多くのサステナブル・ブランドが誕生している。当時皇太子だったチャールズ英国王が企画したキャンペーン・フォー・ウールの10周年記念スカーフのデザインを依頼されるまでに発展する。
本作は長編映画デビューとなるベッキー・ハトナー監督が、3年間もの間、エイミーに密着したドキュメンタリーである。しかし、環境ドキュメンタリーにありがちな環境汚染企業の暴露話ではない。サステナブルなブランドを立ち上げ、ビジネスモデルをREIMAGINED(リイマジン)するまでの成功への道程を描いている。
『ファッション・リイマジン』
9 ⽉22 ⽇(⾦)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
(C)2022 Fashion Reimagined Ltd
配給:フラッグ
公式HP : Fashion-Reimagine.jp