24.07.29 update

第1回【東宝映画スタア☆パレード】 加山雄三☆俳優人生を通じて、音楽家を貫いた若大将

今でもスタジオ入口に『七人の侍』と『ゴジラ』の壁画を掲げる東宝。〝明るく楽しいみんなの東宝〟を標榜し、都会的で洗練されたカラーを持つこの映画会社は、プロデューサー・システムによる映画作りを行っていた。スター・システムを採る他社は多くの人気俳優を抱えていたが、東宝にもそれに劣らぬ、個性豊かな役者たちが揃っていた。これにより東宝は、サラリーマン喜劇、文芸作品から時代劇、アクション、戦争もの、怪獣・特撮もの、青春映画に至る様々なジャンルに対応できたのだ。本連載では新たな視点から、東宝のスクリーンを彩ったスタアたちの魅力に迫る。

 父は上原謙、母は小桜葉子という俳優一家に生まれ、慶応義塾に通ったサラブレッド・池端直亮。大学卒業にあたり、東宝という映画会社で俳優になる道を選んだのは、なんと「親の地盤をいかして、趣味のスポーツや音楽をいかせる」から。近年の回想録でも、「一旗あげて、好きな船を作る」との想いが強かったと述べている。
 加山雄三という芸名が、加賀百万石の「加」、富士山の「山」、英雄の「雄」、東京宝塚劇場の設立者にしてのちの東宝社長・小林一三の「三」からきていることはよく知られた話。しかし、実はこの名は東宝でなく、母方の祖母が占いで付けたものなのだという(日本経済新聞「私の履歴書」)。
 そして、さらに驚くのは、加山が俳優という職業にあまり執着を持っていなかったことである。実際、若大将シリーズの助監督を務め、『俺の空だぜ!若大将』で監督デビューした小谷承靖監督も、「加山は、黒澤さんの映画と‶若大将〟以外は、何も憶えていないからなぁ」と笑っておられたほど。弾厚作なるペンネームを持ったことからも、加山は映画俳優というより音楽家としての意識の方が強かった事実が見て取れる。

 映画俳優としてのデビュー作は、60年6月封切の谷口千吉監督作『男対男』。入社してすぐに、三船敏郎と池部良が対決するハード・アクションの助演者に抜擢されたのだから、会社の期待の大きさが窺える。ところが、北あけみとのキス・シーンの印象がよほど悪かったのか、加山は「こんな仕事、馬鹿馬鹿しくってやってられない」との思いを抱く。デビュー作からこんな調子だから、加山が俳優業に夢や希望を持っていなかったことは明白だ。
 ところが、続く岡本喜八監督の〝戦争アクション〟『独立愚連隊西へ』でいきなり主役クラスに抜擢、かつ劇中歌を歌うシーンがあるためか、これにはかなりノッて取り組んだようだ。翌61年も加山の売り出しキャンペーンは続き、いよいよここで一生の方向性が定まる『大学の若大将』と出会う。

 与えられたニックネームがもし〝若旦那〟であったら、あれほど長く続く人気シリーズにはならなかったろう――、と自ら振り返っているとおり、‶若大将〟というネーミングは本人にとっても会社にとっても大正解。〝スポーツ万能で音楽も得意、おまけに大食いのおばあちゃん子〟という加山本人を思わせるキャラ設定(※1)までなされており、〝明るく楽しい〟東宝のスクリーンには実に相応しい主人公像であった。

 屈託のない大らかさは、黒澤明作品『椿三十郎』(62)でもいかんなく発揮される。このとき黒澤は、撮影中に居眠りした加山を「加山のために30分休憩!」と許容し、厳しい姿勢を示していない。ある意味加山は、東宝という会社の中で大事にされ過ぎ、ぬるま湯の中で育った俳優だったのだ。
 したがって俳優としてのプロ意識は上がるはずもなく、逆に『ハワイの若大将』(63/シリーズ四作目)から自作の曲が採り上げられたこともあり、音楽家としての意識は高まる一方。 
 そんな中、俳優として揉まれたのが、『乱れる』(64)と『赤ひげ』(65)であった。丸1年に亘り演技者として鍛えられた『赤ひげ』については、本人もよく語っているところだが、なにせ成瀬巳喜男監督の『乱れる』は、高峰秀子との〈サシ〉の競演である。ここでは、子供時代から付き合いがあった高峰の、女優としての厳しい姿勢を大いに学んだものと思われるが、これについて加山本人が語ることはほとんどない。

 ご存知のとおり、『エレキの若大将』(65)で歌われた「君といつまでも」の大ヒットは、加山の歌手としての存在感を大いにアップした一方、俳優としての前途を縛ることにもなる。ジャスやクラシックに親しみ、多重録音で曲を作るという、日本のシンガー&ソングライターの草分け的存在でもあった加山は、ベンチャーズやビートルズとの関りも深く、ミュージシャン意識が強まったのも致し方ない。B面の「夜空の星」は、中学時代にピアノ練習曲として作ったものだというから、このときは好きな音楽が俳優業を後押ししたことになる。

▲『エレキの若大将』では、岩内克己監督の演出=恋人の澄ちゃんのために作った歌を初めて披露するシーンで、いきなり澄ちゃん役の星由里子が歌い出す展開に疑問を抱いた加山が仏頂面で「君といつまでも」を歌う(歌い終わりのメロがレコードと違うのに注目!)。古澤憲吾監督によれば「あの二人(加山と星)は全然合わなかった」という(イラスト:Produce any Colour TalZ/岡本和泉)

1 2

映画は死なず

新着記事

  • 2024.11.21
    「星影のワルツ」「北国の春」という2つの大ヒット曲...

    千昌夫「夕焼け雲」

  • 2024.11.20
    能登の子どもたちや被災者を、美しい音楽で励ましてく...

    被災者に勇気を与えるウイーン・フィルの活動

  • 2024.11.20
    指揮・坂本龍一✕東京フィルハーモニー交響楽団による...

    坂本龍一の伝説のコンサートを映画館で!

  • 2024.11.19
    ベートーヴェン「第九」初演から200周年の記念すべ...

    12月31日特別先行上映、1月3日から1週間限定公開!

  • 2024.11.19
    敷寝具から枕まで世界最大級の熟睡ブランド、〈マニフ...

    特別モデル【エコ サンドロ】限定3000台の予約開始!

  • 2024.11.18
    公募展の発祥地〈東京都美術館〉のテーマは「ノスタル...

    芸術活動を活性化させ、鑑賞の体験を深める

  • 2024.11.18
    女優「高峰秀子」と妻「松山秀子」─日本映画史に燦然...

    高峰秀子という生き方

  • 2024.11.15
    本格イタリアンをご家庭で、日清製粉ウェルナの「青の...

    応募〆切: 12月20日(金)

  • 2024.11.15
    京都のグンゼ博物苑で、昭和の激動時代の魅力を伝える...

    グンゼの創業の地で、「昭和レトロ展」

  • 2024.11.14
    「嵐」と並ぶシングル58曲連続トップテン入りを果た...

    THE ARFEE「メリーアン」

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!