もうすぐ79回目の終戦記念日がやってくる。戦争を知らない世代の方が、戦争を体験した人より多くなってしまった現在だが、戦争によって奪われた命や人間性は日本だけではない。北欧のデンマークでも被爆国の日本とはまた違う形で悲劇が起きていた。第二次世界大戦末期のデンマークに起こった知られざる歴史の1ページを描いた『ぼくの家族と祖国の戦争』が8月16日(金)より公開となる。
1940年4月にドイツの侵攻を受けたデンマークはナチス・ドイツの占領下に置かれていた。ドイツが敗戦濃厚になると20万人以上のドイツ人難民が祖国から逃げ出し汽車でデンマークに押し寄せた。デンマークの中央付近にあるフェン島の市民大学の学長をしているヤコブ(ピル―・アスベック)は、現地のドイツ軍司令官から500人以上の難民の受け入れを強いられる。それは許容人数をはるかに超えるもので、その多くは子供と高齢者だった。難民を管理するドイツ兵の姿はどこにもなく、食料も与えられない。飢えに苦しむ難民を見かねた妻のリス(カトリーヌ・グライス=ローゼンタール)は体育館にミルクを運び子供たちに飲ませるが、ドイツ人を憎むべき敵と信じて疑わない12歳のセアン(ラッセ・ピーター・ラーセン)は、そんな母の行動が理解できない。さらに、ジフテリアが蔓延し始め、ドイツ人医師はこのままでは大勢の死者が出ることを訴えて来るが、ドイツ人を憎む医師会の協力は全く得られない。学長のヤコブと妻のリスはドイツ人を救うべきか究極の選択に迫られる。やむなくヤコブはセアンを伴い自力で薬を調達するのだがそれは正攻法ではなかった。それが明るみになると、ヤコブ一家は、「売国奴」と罵られセアンも同級生から虐められ、森で屈辱的な行為を受ける。しかしセアンを救ってくれたのは母のリスがスープをあげたドイツ人孤児のギセラだった。
やがてドイツが降伏し、占領から解放され町は祝福ムードに包まれるが、その陰で、ドイツ軍への協力者とみなされた人々は攻撃され、ヤコブも収容所送りになってしまう。
周囲のデンマーク人にとって憎むべきドイツ難民を助けたことで、売国奴と言われた両親だったが、究極の選択を迫られた時、毅然とした態度で弱いものを助けようとした姿をみてセアンは徐々に変わってくる。
戦争という巨大な暴力に脅かされながらも、人間が選択すべきことは、正しいことは何かを問いかけられる作品である。
12歳の少年・セアンを演じたラッセ・ピーター・ラーセンはオーディションで発掘され本作がデビュー作。父親のヤコブを演じたピルー・アスベックはハリウッド映画でも活躍するデンマークを代表する俳優であるが、その名優と互角と思えるくらい真に迫った演技で、観るものを惹きつける。当時のデンマークの状況をリアルに描いたアンダース・ウォルター監督は、これが長編2作目となる作品である。本作はデンマークのアカデミー賞にあたるロバート賞5部門にノミネートされ、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭国際コンペティション部門にも選出されている。
現在も続くウクライナ戦争、パレスチナ戦争。戦地で闘う兵士のみならず、その家族に及ぼす悲劇を思わずにいられない。
『ぼくの家族と祖国の戦争』
8月16日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBIS GARDEN CINEMAほかにて全国公開
配給:スターキャット
(C)2023 NORDISK FILM PRODUCTION A/S
HP:cinema.starcat.co.jp/bokuno