(WEB版 新・日日是好日) ①
西洋医学だけでなく東洋医学、ホメオパシー、代替医療まで人間を丸ごととらえる日本のホリスティック医学の提唱者であり第一人者。雑誌¿Como le va?には通算37回の健康エッセイを連載していただいている。今回はコロナ禍の非日常的な騒動の記。
新型コロナウイルス騒動のおかげで講演が全部吹っ飛んでしまった。年に100回の講演がしばらく続いたが、ここ2年ほどは年に80回台である。月にすると7回。大体土曜と日曜がほとんど埋まることになる。
地方に赴くときは、前の晩に都心のホテルに宿泊。早朝4時に起床して入浴後に原稿書き、6時30分になると開いたばかりのレストランに一番乗り。メニューは判で押したように、生ビールとフレッシュオレンジジュース、と目玉焼きの両面焼きを1ケ。生ビールで英気を養い、フレッシュオレンジジュースでビタミンCを補い目玉焼きでコレステロールを補う勘定だ。
タクシーで東京駅か羽田空港まで行き車中あるいは機中の人となる。昼食は時間的に余裕のあるときは駅や空港のレストランで生ビール付きとなるが、ほとんどの場合、会場でのお弁当だが、昔からお弁当が好きではないので、かならず瓶ビールが付く。
もともと喋るのが苦手なるが故に医者の道を選んだのであるが、講演は大好きだ。早朝の生ビールで火を点けた英気が一段と高まりを見せて来るのである。さらに、日頃の太極拳のためなのか、あるいは先祖伝来の農民の血の然らしむるところなのか、下半身の衰えを一向に知らないのがありがたい。2時間立ちっぱなしでもさして堪(こた)えない。コロナで吹っ飛ぶ前の2月の最後の講演は90分の講演を続けて2回こなしたものである。
講演こそわが養生法だったが
帰路は駅や空港のレストランで一人旅情に浸る。時間は40分間。生ビールを2杯、地元の焼酎のロックを2杯飲むと時計を見なくても40分である。来し方行く末に思いを馳せながらわが人生を俯瞰するのである。
羽田空港と東京駅には病院の初代総師長で現在は退職して自由の身になっているY女史が車で迎えに来て、自宅まで送ってくれる。羽田空港のJ A Lでは中華料理店で、A N Aでは日本料理店で、東京駅では大丸のなかの京料理の店で夕食を摂るのを原則としている。
どうです。この体、心、命のすべてを巻き込んだダイナミズムは!
Y女史がいつも、
――講演は先生の養生法です!
と叱咤激励してくれるのを宜(むべ)なるかなと感じ入っている次第である。
もう一つは講演料が入らなくなって毎日の晩酌代に事欠くようになり、少しあわてたが、そこはよくしたもので馴染みのお店が次々とお休みになって、なんとなく帳尻が合って来た。また土・日の日中はもっぱら原稿書きに当てているが、心のときめきはともかくダイナミズムでは講演に及ばない。ということで、コロナ騒動の終息を切に願うものである。
おびつ りょういち
帯津三敬病院名誉院長。日 本ホリスティック医学協会名誉会長。1936年埼玉県生まれ。 61年東京大学医学部卒業。 東京大学医学部第三外科医局長、都立駒込病院外科医長などを経て、82年帯津三敬病院を開設し院長。