第一次世界大戦から5年余り経った1924年3月、初夏のような穏やかな日曜日だった。イギリス中のメイドが里帰りを許される〝母の日〟というのに、ニヴン家に仕える孤児院育ちのメイド、ジェーンには帰る家はない。ただ22歳のジェーンはシェリンガム家のポールと道ならぬ恋に落ちていた。その日もポールからの誘いの電話が入る。
二人の長兄が戦死し、末弟のポールはホブデイ家のエマと結婚を控えている。長く親交のあるシェリンガム家、ニヴン家、ホブデイ家は度々食事会を開いていたが、ニヴン家の二人の息子も戦死しており、ポールとエマの結婚の前祝いの昼食会も沈みがちである。なかなか盛り上がらないのも当然で、弁護士志望のポールは勉強に集中したいと嘘をつき、ジェーンとの許されざる密会に時を過ごしていたのだ。二人の官能の時が過ぎ、ポールは遅れて昼食会に向かったが、その後ジェーンに思わぬ知らせが舞い込んでくる。
意を決したジェーンはニヴン家に暇をもらう。当時の女性がメイドから一躍書店の店員になることは女性の自立への大きな一歩だった。ジェーンはあらゆる書物に触れ訪れる知識人とも会話し、タイプライターを打って小説を物するようになってゆく。20余年後、小説家になったジェーンは、忘れられないこの特別な日曜日を何とか小説にしようと追想を重ねるのだった。ジェーンにとって、確かに人生を変えた劇的な一日だったのである。
物語を超えて映像美を堪能できる作品である。何より美しい映像に誰もが目が奪われることだろう。ワンカット、ワンシーンをそのまま豪華な額に納めれば静謐な印象派の絵画になる。官能的なシーンもヌードも写実画のように美しく、女性監督ならではのまなざしであり感性である。
確かに見方によっては悲劇のラブストーリーだが、階級制度色濃く封建的な世の中で、努力と才能によってメイドから小説家として中流階級に上りつめてゆく女性の物語でもあり、女性の自立への道を描いてもいる。
付け加えるなら20代のメイドのジェーンと作家になった40代のジェーン役が同じ女優かと疑ってしまったほど素晴らしいメイクで、彼女のそれまでの人生がにじみ出ていたように感じられる。
■監督:エヴァ・ユッソン
■出演:オデッサ・ヤング/ジョシュ・オコナー/コリン・ファース/オリヴィア・コールマン/グレンダ・ジャクソン/ソープ・ディリス
■2022年5月27日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋ほか全国公開!
■配給:松竹
■R-15