自分の命は自分で決める

私の生前整理 2018年7月1日号より


 

文=鎌田 實
(医師・作家)


 生前整理というと、自分の財産をどうするかということに目がいきがちです。でも、いちばん大事な自分の命については、あいまいなまま、なりゆきに任せている人が多いように思います。

 その結果、望んでいない延命治療や蘇生処置が行われたりして、死の形を複雑にしています。胃に穴を開けて栄養を入れる胃瘻という処置を受けている人は 26 万人いるといわれていますが、自らの意思で選択した人はどのくらいいるでしょうか。

生前の意思を残す
「リビング・ウィル」

 いつか必ずやってくる死について、自分の考えを残すことは大切なことです。こうした「リビング・ウィル」の必要性が言われて久しいのに、いまだにあまり広がっていないのは残念なことです。 13 年の厚労省の調査では、意思表示の書面作製に賛成の人は7割いましたが、実際に書面を作った人は、このうちのたった3%でした。

 日本は多死時代を迎えています。「孤独死」もますます増えるでしょう。世間は「孤独死」=「かわいそう」という目で見るかもれませんが、本人が納得しているなら関係ありません。たまたま最期の場面で、だれにも看取られなかったとしても、人生を自分らしく生きることができれば、それはそれですばらしい生き方だと思います。

 自分らしい人生のためにも、病気が不治の状態で、死が迫っている場合、胃瘻や人工呼吸器などで延命処置をするか、苦痛を緩和する治療を受けるかなどを考えて、 意思を記しておきましょう。

クリスマスローズを
残した男性

 元気なうちから、死について考えておくことも大切です。花屋を営む60代の男性が、 膵臓がんの末期になってホスピス病棟に入院してきました。彼は自分の病状をよくわかっていて「苦労も多かったけど、人生、おもしろかった」と語りました。人生のピンチに立って、静かに死を受容しているかのように穏やかでした。

 彼は、病気になるずっと前から、妻とともに般若心経を読み、死のことを考えてきたといいます。命には限りがあるからこそ、今をどう生きるかという視点で、家族とつきあい、花屋の仕事にも取り組んできたのです。

 男性は、最後にこんな提案をしてくれました。「私のいちばんの自信作はクリスマスローズです。この球根をぜひ、病院の庭で育ててもらえませんか」

 男性はほどなくして亡くなりましたが、 春になり、病院の庭で咲いたクリスマスローズが、病気と闘っている患者さんやご家族、病院のスタッフたちの目を楽しませています。 

ぼくの生前整理

 死について考えておくことは、どんな終末期医療を選択するかなど、死に備えられ るだけではありません。生き方を見直すという大きな意味もあります。

 ぼくは今 70 歳で、医師としても、もの書きとしても充実した日々を過ごしています。でも、いちばん無心になれるのはスキーをしているとき。ダウンヒルを滑降しながら心臓発作で逝けたら最高だなと思っています。

 そのためには、死ぬまでスキーを続けられる体づくりが必要だと思って、積極的にスクワットなどで筋肉を鍛えています。おかげで贅肉がとれ、60 代より健康的になりました。もちろん、万が一の時は、延命治療はいらないと書き残しています。

 自分の命の始末を考えることは、生のあり方も問い直すこと。そんな「死の哲学」を一人ひとりがもっと真剣に考える時代が来るといいですね。


かまた みのる

医師・作家。1948年東京生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県諏訪中央病院へ赴任。30代で院長となり、潰れかけていた病院を再生させた。91年より約25年間、ベラルーシ共和国の放射能汚染地帯へ100回を超える医師団を派遣し医薬品を支援してきた。04にはイラクに支援を開始、難民キャンプでの診察を続けている。東北の被災者支援にもいち早く取り組む。現在、諏訪中央病院名誉院長、日本チェル ノブイリ連帯基金(JCF)理事長、日本・イラク・メディカルネット(JIM-NET)代表、地域包括ケア研究所所長、東京医科歯科大学臨床教授、東海大学医学部客員教授。主な著書に『がんばらない』『1%の力』『だまされない』など多数。

2018年7月1日 Vol.36より

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