20.06.17 update

自分の命は自分で決める

私の生前整理 2018年7月1日号より

 

文=鎌田 實
(医師・作家)

 生前整理というと、自分の財産をどうするかということに目がいきがちです。でも、いちばん大事な自分の命については、あいまいなまま、なりゆきに任せている人が多いように思います。

 その結果、望んでいない延命治療や蘇生処置が行われたりして、死の形を複雑にしています。胃に穴を開けて栄養を入れる胃瘻という処置を受けている人は 26 万人いるといわれていますが、自らの意思で選択した人はどのくらいいるでしょうか。

生前の意思を残す
「リビング・ウィル」

 いつか必ずやってくる死について、自分の考えを残すことは大切なことです。こうした「リビング・ウィル」の必要性が言われて久しいのに、いまだにあまり広がっていないのは残念なことです。 13 年の厚労省の調査では、意思表示の書面作製に賛成の人は7割いましたが、実際に書面を作った人は、このうちのたった3%でした。

 日本は多死時代を迎えています。「孤独死」もますます増えるでしょう。世間は「孤独死」=「かわいそう」という目で見るかもれませんが、本人が納得しているなら関係ありません。たまたま最期の場面で、だれにも看取られなかったとしても、人生を自分らしく生きることができれば、それはそれですばらしい生き方だと思います。

 自分らしい人生のためにも、病気が不治の状態で、死が迫っている場合、胃瘻や人工呼吸器などで延命処置をするか、苦痛を緩和する治療を受けるかなどを考えて、 意思を記しておきましょう。

クリスマスローズを
残した男性

 元気なうちから、死について考えておくことも大切です。花屋を営む60代の男性が、 膵臓がんの末期になってホスピス病棟に入院してきました。彼は自分の病状をよくわかっていて「苦労も多かったけど、人生、おもしろかった」と語りました。人生のピンチに立って、静かに死を受容しているかのように穏やかでした。

 彼は、病気になるずっと前から、妻とともに般若心経を読み、死のことを考えてきたといいます。命には限りがあるからこそ、今をどう生きるかという視点で、家族とつきあい、花屋の仕事にも取り組んできたのです。

 男性は、最後にこんな提案をしてくれました。「私のいちばんの自信作はクリスマスローズです。この球根をぜひ、病院の庭で育ててもらえませんか」

 男性はほどなくして亡くなりましたが、 春になり、病院の庭で咲いたクリスマスローズが、病気と闘っている患者さんやご家族、病院のスタッフたちの目を楽しませています。 

ぼくの生前整理

 死について考えておくことは、どんな終末期医療を選択するかなど、死に備えられ るだけではありません。生き方を見直すという大きな意味もあります。

 ぼくは今 70 歳で、医師としても、もの書きとしても充実した日々を過ごしています。でも、いちばん無心になれるのはスキーをしているとき。ダウンヒルを滑降しながら心臓発作で逝けたら最高だなと思っています。

 そのためには、死ぬまでスキーを続けられる体づくりが必要だと思って、積極的にスクワットなどで筋肉を鍛えています。おかげで贅肉がとれ、60 代より健康的になりました。もちろん、万が一の時は、延命治療はいらないと書き残しています。

 自分の命の始末を考えることは、生のあり方も問い直すこと。そんな「死の哲学」を一人ひとりがもっと真剣に考える時代が来るといいですね。

かまた みのる
医師・作家。1948年東京生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県諏訪中央病院へ赴任。30代で院長となり、潰れかけていた病院を再生させた。91年より約25年間、ベラルーシ共和国の放射能汚染地帯へ100回を超える医師団を派遣し医薬品を支援してきた。04にはイラクに支援を開始、難民キャンプでの診察を続けている。東北の被災者支援にもいち早く取り組む。現在、諏訪中央病院名誉院長、日本チェル ノブイリ連帯基金(JCF)理事長、日本・イラク・メディカルネット(JIM-NET)代表、地域包括ケア研究所所長、東京医科歯科大学臨床教授、東海大学医学部客員教授。主な著書に『がんばらない』『1%の力』『だまされない』など多数。

映画は死なず

新着記事

  • 2024.04.19
    ゴールデンウイークのお出かけに!麻布台ヒルズギャラ...

    4月27日(土)~5月23日(木)

  • 2024.04.19
    箱根の宿には「おかみ」の行き届いたホスピタリティが...

    杉山留里(箱根おかみの会 会長、「和心亭豊月」女将)

  • 2024.04.19
    国の「重要文化的景観」に選定された<葛飾柴又>の知...

    京成電車下町さんぽ<1>

  • 2024.04.18
    トヨタのマークⅡでドライブしながら何度も聴いた、稲...

    「ハコバン」から28歳でデビュー

  • 2024.04.18
    韓国アイドルグループ「2AM」のジヌンもバスケット...

    4月26日(金)全国公開

  • 2024.04.17
    渡り鳥のように、4箇所をぐるぐる ─萩原 朔美 ...

    第12回 キジュからの現場報告

  • 2024.04.17
    利発で、正義感が強く、潔癖で、ちょっぴり生意気で、...

    昭和30年後半の大映映画の青春スター

  • 2024.04.11
    相模原出身のロックバンド (Alexandros ...

    相模大野駅の列車接近メロディ

  • 2024.04.11
    下町の太陽、庶民派女優といわれながら都会の大人の女...

    150万枚のミリオンセラーを記録

  • 2024.04.09
    一日限りの『男はつらいよ』シネマ・コンサート開催!...

    6月29日(土)開催

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

information »

new ロマンスカーミュージアムが3周年記念イベントを開催!

イベント ロマンスカーミュージアムが3周年記念イベ...

4月10日(水)~5月27日(日)

「箱根スイーツコレクション 2024」開催中 4月22日(月)まで キャンペーンも実施中

箱根 「箱根スイーツコレクション 2024」開...

Instagramをフォローして、素敵な賞品をゲットしよう

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!