22.02.15 update

昭和の時代の太陽だったヒーロー・植木等が帰ってきた!

『今だから!植木等』
東宝クレージー映画”と“クレージー・ソング”の黄金時代

〝オール・アバウト・植木等〟とも言うべき本が登場した。植木等の映画と音楽、そしてその人間性までをも語る一冊である。著者はコモレバWeb版での連載「成城シネマトリビア」の筆者でもある高田雅彦氏。幼少時より東宝映画に親しみ、とりわけクレージー映画、黒澤明&三船敏郎の映画をこよなく愛し、東宝撮影所に近いという理由で大学も成城大学を選択したという人物だ。高田氏は子供時代に、植木が歌った楽曲とスクリーンに躍る植木の雄姿、そして底抜けの高笑いに胸を躍らされて以来、映画、レコード、ソノシート、出演するテレビやCMの中の植木を追い続けている。東宝映画を見始めたのは1959年だという。小学校の低学年ながら、植木のレコードや、出演した東宝映画には同時代的に接してきた。クレージーキャッツの笑いは、大人向けの、子供に媚を売らない洗練されたもの、そして当時の子供たちは、この〝お子様向けではない〟植木に魅せられたと言う。

 この本は、膨大な資料や、長年にわたる取材を裏付けに綴られる、まさに植木等研究書ともいうべき労作であるが、高田氏の視点は評論家の視線ではない。ファンだからこその〝植木等愛〟が本全体から伝わってくる。資料を集め、目を通すだけでも相当の時間と労力を要したに違いないが、高田氏は嬉々としてその作業に向き合ったに違いない。子供の頃から、植木等に関するものすべてに興味を示し、どんな小さなエピソードまでをも拾い続けて、この本を上梓してからも、尚その作業は続いているのではないだろうかと推察する。植木等その人を理解する、あるいは分析する上でのデータや資料がこの人のカラダにはしみ込んでいる。植木に関することについては、どんな小さなことでもとりこぼしたくないという思いが、そして、新たな事実に出会う著者の喜びが本書から溢れ出ている。著者の言葉を引用すれば、「植木等について考えることは愉しく、本書を編むのがまさに「わかっちゃいるけど、やめられない」作業であった」ということである。植木等の存在そのものに惹かれたのである。

 本書で注目すべきは、〝ミュージシャンとしての植木等〟の部分にスポットが当てられていることだろう。植木の運転手兼付き人の第1号だった小松政夫氏(2020年12月死去)と、植木とも実際に共演した音楽家でギタリストの斎藤誠氏が経験から見た〝音楽家・植木等〟について語られる部分は貴重で、そこから引き出された「俳優としての根幹を支えていたのはミュージシャンとしての資質だった」という植木自身の言葉は興味深い。その他にも小松政夫氏と、植木等の〝最後の付き人〟藤元康史氏の証言から浮かび上がる植木等の実像、〝無責任キャラ〟や「スーダラ節」をはじめとする歌を植木自身が疎んでいた時代があり、その根深い悩みと自身の心の葛藤にもアプローチしている。〝植木等という役目〟を背負って日本中に笑いとパワーを発散し続けたのだと著者は言う。

 高田氏は植木等とも実際に会って、貴重な時間を共にしているが、植木は高田氏のことを「植木等を植木自身よりも知っている人」として迎え入れていたのではないだろうか。植木等を愛してやまない高田氏と接することは、植木自身にとっても嬉しいことだったに違いない。高度経済成長期のど真ん中に歌や映画で第一線に躍り出た植木等。高田氏は、クレージー映画を〝一生の宝物〟と言い、植木等を、当時の少年たちにとって、まこと<太陽>と称すべき存在であったと続ける。著者の前書きの言葉を紹介しておこう。「本書の目的は、かつて昭和の時代を――まさに<太陽>のように――明るく照らした植木等に改めてスポットを当て、その出演映画と音楽、さらには人間としての比類なき存在感を語ることにより、現在の日本を取り巻く閉塞状況を吹き飛ばすことにある」


著者:高田雅彦
定価:3,200円+税
発行元:株式会社アルファベータブックス

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