★特集コラム 劇団俳優座80年の役者たち Vol.10
2024年2月10日に創立80周年を迎えた「劇団俳優座」。劇団俳優座で活躍した名優たちをクローズアップしてお届けする。第10回は7期生の田中邦衛(1932年11月23日~2021年3月24日)
岐阜県土岐市生まれの田中邦衛の生家は、100年以上続く美濃焼の窯元である。地元の旧制中学で品行があまりよくなかった田中は、父親がツテを頼って全寮制で道徳を重視する千葉県柏市の麗澤短大付属高校へ転校させた。幼い頃から映画を観るのが好きで、俳優に憧れていたが映画会社の募集する美男美女には尻込みをしていた。そんな田中に学友が教えてくれたのが俳優座養成所だった。麗澤短大時代に2度受験したが、不合格。やむなく故郷へ帰って家業を手伝いながら代用教員をしたが、養成所への気持ちは断ちがたく、教員を10カ月で辞めて3度目の挑戦をしたのである。
試験官の東山千栄子から、「あなた、またいらっしゃったの」と言われながらも、3度目で合格。1955年養成所7期生として入所。同期には井川比佐志、露口茂、山本學、藤岡重慶、中町由子、水野久美らがいた。57年、今井正監督『純愛物語』(東映)に初出演。58年、NHKの本格的な連続ドラマで、十朱幸代と岩下志麻の出演が話題になった「バス通り裏」でテレビ初出演。58年、安部公房の戯曲『幽霊はここにいる』(俳優座第44回公演)で、いつも幽霊を連れている貧相な男、深川啓介役の抜擢で注目される。
61年からスタートした「若大将シリーズ」では、加山雄三の颯爽とした若大将に対して、何かと横車を押すドラ息子の青大将・石山新次郎役を演じる。このシリーズは10年間17作という東宝のドル作品になり、青大将は回を重ねるに従い、主役の加山をしのぐ人気となった。65年に出演したフジテレビ「若者たち」は映画化され、第22回毎日映画コンクール男優主演賞を受賞した。65年~72年には高倉健の網走番外地シリーズ(東映)、73年~74年には菅原文太の仁義なき戦いシリーズ(東映)でわき役の地位を確固たるものにした。73年、井川比佐志らと俳優座を退団、安部公房らと行動を共にし、後にフリーとなる。
田中邦衛の代表作として浮かぶのはドラマ「北の国から」の主人公・黒板五郎役である。「北の国から」は倉本聰の原作、脚本で81年10月から翌年3月迄の毎週金曜日10時からフジテレビ系で24話にわたって放送された。不器用ながらも二人の子の成長を見守る父親役で、田中の当たり役の一つとなった。東京の生活になじめず、妻(いしだあゆみ)の浮気を機に、故郷の北海道・富良野に帰って来た五郎と、父に連れられてきた純(吉岡秀隆)と蛍(中嶋朋子)が富良野の大自然の中で成長していく姿が描かれた。出演者は収録前から合宿をして土地になじむことから始める徹底ぶりだった。連続ドラマ24話の後も、純と蛍の成長に合わせスペシャルドラマが作られ、「北の国から 20202遺言」まで21年間にわたり多くの視聴者に愛された。今でも、「北の国から」のタイトルを聞けば、さだまさしの主題歌とともに、顔をくしゃくしゃにして笑う田中が浮かんでくる。
『男はつらいよ』シリーズや『学校』シリーズ、藤沢周平3部作の『隠し剣 鬼の爪』(04)など山田洋次監督作品にも数多く出演した。夜間学校を舞台にした『学校』(93)では中年になるまで文字が読めなかったイノさんを演じ、日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞した。「北の国から」で苦楽を共にした杉田成道監督の『最後の忠臣蔵』(11)で赤穂旧家臣の奥野将監役で特別出演したが、奇しくも本作が遺作になってしまった。67年『若者たち』で毎日映画コンクール男優主演賞、74年『緑色のストッキング』で紀伊國屋演劇賞第9回個人賞、99年紫綬褒章、06年旭日小綬章受章。21年3月24日逝去。享年88。