2001年、東映創立50周年記念として公開された、『鉄道員(ぽっぽや)』や『あなたへ』などの名コンビ、降旗康男監督、高倉健主演による『ホタル』。高倉健は、特攻隊の生き残りの男を演じ、その妻を『夜叉』や『あなたへ』でも相手役として共演している田中裕子が演じている。高倉は、心に深い傷を負った人物が、まるで人生を償うように、ひっそりと生きる男を演じるとき、台詞以上に、高倉健という存在自体がその登場人物と重なり、観る人の心に説得力をもって入り込んでくる。そして、田中裕子もまた、高倉健演じる男に寄り添うとき、高倉の役柄と同じような悲しみを湛えた女に映る。複数の作品で共演しているのも、高倉が田中の中にそんな色彩を見ていたからではないかと思えるのだ。また、特攻隊として空に散っていった男たちを見守り続けた〝知覧の母〟と呼ばれる女性を奈良岡朋子が演じ、ブルーリボン賞助演女優賞を受賞している。奈良岡朋子もまた、高倉が敬愛した女優だった。高倉自身も日本アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたが、後輩の俳優に道を譲りたい、と辞退したことはよく知られている。井川比佐志、小林稔侍、夏八木勲、石橋蓮司、小澤征悦、中井貴一らも出演。©2001「ホタル」製作委員会