安全な環境下での
演劇形態の模索
――再開の目処はどのように立て、準備していらしたのでしょう。
本多 一度創作活動が中止になると、稽古、会議を重ね公演にまでこぎつけるのに相当な時間を要します。ましてや人が集まってもいけないという状況下で4月に緊急事態宣言が発出されて、5月のゴールデンウイーク明けにすぐ公演ができるかと言えば、正直無理な話です。一方、ゴールデンウイーク明けくらいにはソーシャルディスタンスを遵守して、感染症対策を行いながら最小限の人数で作る無観客芝居の映像配信であればOKという劇場再開に関する都の方針も出ていました。そこでお客様に安心して観ていただける環境造りを大前提に、6月頃の劇場再開を念頭に置き、4月下旬くらいからいろんな方たちとお話させていただき、いつでも有観客での公演ができる準備をしていました。もちろん何が起きるかわからない状況だったので、その公演が発表できなくなってしまうときの対策案もみんなで練っていました。結果、都のロードマップがステップ2(入場制限や座席間隔の留意を前提に劇場や映画館の再開が可能)へと移行した6月1日に、その日にステップ2へ移行することを見越していたわけではなく偶然なんですが本多劇場で無観客生配信によるひとり芝居『DISTANCE』で再開しました。現在はステップ2へ移行したことを受けてお客様を入れての公演を実施しています
――現在の劇場の状況はいかがですか。
本多 再開後に初めてお客様をお入れしての公演では、70から80人くらいのキャパシティの小さな劇場ですが、観客は関係者を含めて15名くらいでした。全国公立文化施設協会のガイドラインをベースに、6月には小劇場協会を立ち上げそこでのガイドラインも作り、さらにその2つを基に劇場個別の独自のガイドラインも作りました。本多劇場グループのガイドラインに則り、少しずつ観客者数を増やしていますが、今現在は通常の4割程度を最大設定にしています。興行的に成り立つかと言えば、絶対に成り立たないのですが、感染症対策を万全にした上で何かしらの行動、活動を起こさないと、劇場再開の見込みは望めないと思っていました。そして劇団の方々にも今後継続して演劇活動を行っていただきたいという願いから、半値以下の賃料で劇場をご提供しています。
劇場がある街、
街と共にある劇場
――先日はシアターモリエールのクラスター問題というのが起こりましたが。
本多 100パーセントの安全を望むのは難しいですが、可能なかぎり感染症対策を行い、安心して芝居を観ていただける環境のご提供を第一に心がける中で、より一層何かしらの強化を図っていかなければいけないとは思っています。感染症対策にしても、手を尽くせるかぎりの有効な策はほとんどやっているとは思っていますが、今後も想定できる状況へのありとあらゆる対策のパターンは日々増えていくと思います。
――そして、今願うことは。
本多 現在4割程度ながらお客様を入れての公演ができていますが、じゃあ次のステップはと考えると、劇場を以前の状態にまで100パーセント機能させるというのがやはり目標になりますが、コロナ禍において成し遂げるのは難しいとは思います。この状況の中でどれだけのことができるのか、事態が収束するのがいつなのか、達成するところがどこなのかというのが見えない現状では、安心してお客様に来ていただける、劇団も安心して創作活動ができるという環境をどのように整備していくのかということしか考えていないですね。また、劇場というのは娯楽の場ということで、今そんな場合ではないだろうというご意見もお受けするなかで、演劇に携わる人間にとっては職場でもあるということを理解していただきたい。演劇人たちにとってかけがえのない生活の場なのです。劇場というのはお客様に来ていただかないと機能しません。だから地域の方たちのご理解なしに運営はできないとも思っています。劇場がある街、そこにお客様に来ていただいて、街も楽しんでいただいて、劇場にも足を運んでいただき、観劇の後は芝居の余韻を持って帰っていただく。芝居を観るというのは、わざわざその劇場に足を運んでいただくわけですから、今までも街全体を踏まえた上での楽しんでいただける環境造りを心がけてきましたが、街に密着した劇場であり、劇団、お客様と親密な劇場という、今後も本多劇場グループの姿勢を崩さないよう維持していきたいと思います。