クラウドファンディングに寄せられた大きな支援
――クラウドファンディングを立ち上げられましたね。
木下 休館の少し前に立ち上げたんですが、下高井戸シネマがつぶれそうだという印象を世間に与えてしまうのではないかとか、つぶれそうな映画館には映画を貸せないだとか、という状況になりうることを危惧して、実は社内ではあまり歓迎されていない状況の中で、独断で立ち上げたんです。言ってみれば自社の経営不振を大っぴらに世間に披露することになるわけですものね。嬉しいことにこんなにと思うほど支援してくださる方がたくさんいらして、最終的に2か月で1700名の方々が支援してくださったのですが、そういう方々への対応を休館中に一人でやっていました。立ち上げてはみたものの、ほかのスタッフ同様、正直集まるわけがないと私自身も期待していなくて、10人でも寄付してくださる方がいればいいと思っていたのが、1700人と想像をはるかに超える支援者の方たちがいて、約580万円集まりました。
――多くの支援を得られて何を感じられましたか。
木下 なにより、下高井戸シネマを愛してくださる、応援してくださる人たちがこんなにもいらっしゃるということが実感できたという、どんなに言葉を尽くしても足りない、最高の幸せを味わわせていただきました。そして、映画が人々の心を潤わせる、なくてはならない文化であること、映画館が、人々にとってどれだけ大切な場所なのかということを知り得て、映画文化に携わる人間としてこんなに豊かな気持になれたことに感謝しています。寄付に添えてメッセージも寄せてくださって、大いに励みになりました。ご自身と下高井戸シネマとの懐かしいエピソードをはじめ、そのメッセージ一つひとつにショートムービーができそうなドラマがあって、映画が人の人生に寄り添う文化であるということを再認識しました。特に私の心に響いたのが、「父がこの映画館が好きで会員でした。今は私が受け継いで会員になっています」という女性がいらして、私が父から映画館を受け継いだことと重なって、お客様にとっても映画館の人間にとっても、映画と映画館が世代を超えて下高井戸の街で受け継がれているというのが嬉しかったです。クラウドファンディングを通して、お客様たちそれぞれと会話ができたような気がしています。昨年、この仕事を継いだばかりで、想像を絶する災厄に見舞われたわけですが、父から受け継いだ映画館が、こんなに人々に愛されている映画館だった、ということを知ることができ、仕事を継いだことの喜びをこんな短期間で味わわせてもらいました。