24.04.19 update

国の「重要文化的景観」に選定された<葛飾柴又>の知らなかった楽しみ方

お参りだけではもったいない帝釈天

『男はつらいよ』の主人公・車寅次郎(寅さん)が産湯をつかったという御神水があり、笠智衆演じる御前様、佐藤蛾次郎演じる寺男・源公が今にも出てきそうな「柴又帝釈天」。その歴史は400年近くに及ぶ。

「帝釈天題経寺」は日蓮宗の寺院で正式には「経栄山題経寺」という。開山は、下総中山の法華経寺第十九世禅那院日忠上人による。開基は第二代題経院日栄上人が、葛飾柴又へ寄った際、見事な枝ぶりの松の木(隋龍の松)と、その下に霊泉が湧いているのを見つけ庵を開いたことが経栄山題経寺、柴又帝釈天のはじまりで、寛永6年(1629)のことである。日蓮上人自らが刻んだと伝えられる「帝釈天の板本尊」が安置されていたがこれが中世になって一時所在不明になってしまった。第九代の日敬上人のときに、本堂を修理したところ板本尊が発見された。これが安永8年(1779)の春、庚申(かのえさる)の日であったことから、柴又帝釈天では、「庚申の日」を縁日とし、60日ごとに開かれる。

 板本尊が発見されて間もなく、「天明の大飢饉」が起こり飢饉や疫病が流行った。このとき住職だった日敬上人が板本尊を背負い、「南無妙法連華経」と唱えながら苦しんでいる人々を救済して歩いた。さらに、庚申の日に夜通し眠らず、身を慎めば長生きできるという、「庚申(こうしん)信仰」が盛んになって、「柴又の帝釈天が庚申の日に出現した」と広まり、「庶民の寺」として信仰を寄せるようになった。

 その後明治22年(1888)には、本堂の拝殿を建て替え、庫裏も新築し、明治29年(1896)には、現在の二天門が完成した。その後、大正時代になると帝釈堂内殿が増設され、昭和30年代には大鐘楼堂、大回廊が完成。さらに昭和40年(1965)から3年をかけて、大客殿前の庭園を大改修して池泉式庭園の「邃渓園(すいけいえん)」が完成した。庭園の滝が幽邃で物静かであることから「邃渓園」と名づけられたという。昭和59年(1984)には庭園の周りに回廊が設けられ、庭園に降りることはできないが、全方向から眺められるようになっている。また、大客殿は平成14年(2002)、東京都の歴史的建造物(選定番号48)に指定された。大客殿は全て檜で造られており、特に座敷4室の奥に位置する「頂経の間」の「南天の床柱」は、樹齢1500年の南天の自然木が使われており見事だ。

江戸期建築の最後の名匠と言われた坂田留吉棟梁によって造りあげられた「二天門」は総欅造り。門前通りの正面に聳え立ち、この門をくぐると瑞龍のマツ、帝釈堂が目前に現れる。(画像提供:帝釈天題経寺)
邃渓園は、向島の庭師・永井楽山の設計による。

1 2 3

映画は死なず

新着記事

  • 2024.12.19
    NHK紅白歌合戦の変遷をたどってみたら、東京宝塚劇...

    石橋正次「夜明けの停車場」

  • 2024.12.18
    坂本龍一が生前、東京都現代美術館のために遺した展覧...

    音と時間をテーマにした展覧会

  • 2024.12.18
    新しい年の幕開けに「おめでたい」をモチーフにした作...

    年明けに縁起物の美を堪能する

  • 2024.12.17
    第26回【キジュからの現場報告】喜寿を過ぎて─萩原...

    これからは地方の都市に住むかもしれない……

  • 2024.12.12
    ベルリン国際映画祭金熊賞受賞!桃農家を営むスペイン...

    スペインの桃農家のできごと

  • 2024.12.12
    三菱一号館美術館 再開館記念「不在」─トゥールズ=...

    応募〆切:12月20日(金)

  • 2024.12.12
    作曲家・筒美京平がオリコン週間1位を初めて獲得した...

    いしだあゆみ「ブルー・ライト・ヨコハマ」

  • 2024.12.09
    リチャード・ギアも出演した黒澤明監督の『八月の狂詩...

    数々の「老女」役で存在感をみせた村瀬幸子

  • 2024.12.09
    泉屋博古館東京「企画展 花器のある風景」観賞券

    応募〆切:1月20日(月)

  • 2024.12.07
    中山美穂さんの大ヒット映画『love Letter...

    河井真也さんの追悼の言葉

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!