建物と融合した作品を単横できる贅沢を味わう
朝香宮夫妻は1925(大正14)年、若くしてパリにながく滞在し、のちにアールデコ博といわれる美術博覧会を視察。内装設計をフランスの装飾美術家アンリ・ラパンに委嘱し、世界にもこれだけ純粋にアールデコ様式で統一された建物はないと言われるほどのものを作った。公用の一階は石材中心、私邸の二階は本場ではあまり使われない和を感じる木材を取り入れ、例えば細みの丸木柱に金属の頭注飾りを施す。
この「建物自体が美術品」にどんな展覧会がふさわしいか。常設展はなく、年数回の企画展を行い、前回は「岡上淑子のフォトコラージュ」、今は「キスリング展」だ。
およそ100年前のパリで一世を風靡したエコール・ド・パリを代表する画家・キスリングは、印象派やフォービズムに憧れて芸術の都パリに行き、ピカソやモジリアニ、藤田嗣治らと交流した。私は初めて見る。
いくつもの部屋に点在する作品は一室に一点の部屋もあり、広大無機質な美術館にガラス越しに何点も並べる美術展とはちがい、本来絵とはこうして室内に飾るものと思わせる。学芸員は「この絵はこの部屋よね」と楽しんだにちがいない。
そうして目前に見る、まだ油絵具が乾いていないような生々しい発色の冴え。人物、風景、静物、裸婦、花など伝統的な画題の絵は親しみやすく、新思潮のキュービズムなどに学びながらも過度にそちらに走らず、あくまで描く楽しさを忘れない「絵の幸福」があふれる。私も高校時代は絵を描いていた。再び絵筆を持つならこういう絵だなとしみじみ思う。「花瓶に花」というまことに平凡な主題がこれほど多様に幸福感あふれて描けるものか。いちばん好きな画家はマチスだが、これからはキスリングを加えよう。
ひさしぶりの「絵はいいなあ」という感動はここで見た要素も大きかっただろう。建物自体を楽しみに訪ねる価値のあるすばらしい美術館だ。