お多幸 銀座八丁目店
大正12年に太田コウさんが始めた「お多幸」。そのお多幸で戦後、裸一貫で兵庫から出てきた現オーナーの野田康彦さんの祖父が修業し、昭和27年にのれん分けをしてもらったのが、「お多幸銀座八丁目店」の始まり。ちなみに当時5丁目にあったお多幸は、現在日本橋に移転し、「お多幸本店」として営業している。やや色の濃い関東風の出汁はすっかりおなじみだ。人社12年目の木村皇城さんが、小鍋で下煮した大根などを大鍋に移して味を染み込ませる仕込みをしていた。はんぺん、すじ(魚)・信田巻は日本橋の神茂から仕入れるが、その他の種物は、山梨にある自社工場製である。人気のおまかせ盛り合わせ1人前。こんにゃく、焼きちくわ、厚揚げ、昆布巻き、ちくわぶ、大根、豆腐、すじなど、はんぺん、いいだこなど。1階と2階はカウンターとテーブル席、3階は掘りごたつの和室になっていて、予約も可能。4名以上の宴会に使い勝手がいいスペースだ。
〔住〕中央区銀座8-6-19 〔問〕03-3571-0751
浅草おでん大多福
創業100年を機に建て替えを決め、約2年大川橋の仮店舗で営業をしていた老舗の「浅草おでん大多福」。2019年10月3日、創業の地に再び灯りがともった。解体された古材を倉庫に保管しながら再利用できるものを選び出し、大旦那(4代目)の舩大工安行さんは職人さんと楽しみながら新店舗の内装に取り組んだ。1階の使いこなされたカウンターや、撫でられ、つるつるになった柱、2階の入り口扉、常連さんの名前の入った「ちろり」がかけられた棚など、歴史を刻して愛されてきたお店の様子が伝わってくる。新装・大多福には、大旦那の孫の海斗さんが加わり、5代目の茂さんと三代で老舗の味を守る。1階はおなじみさん用の隠れ家のような趣で、大旦那がカウンターに立つ。2階はカウンター席と、テーブルの個室があり、それぞれ「日和」「柳緑」「可惜夜」など、海斗さんが思いを込めて命名したそうだ。大根、銀杏、はんぺん、こんぶなど約40種がある。品書きの筆や、お皿のデザインは大旦那の「作品」。老舗「浅草 おでん大多福」で、日本の伝統食を愛でる贅沢なひとときを楽しみたい。
〔住〕台東区千束1-6-2 NS言間ビル (問〕03-3871-2521
四季のおでん
銀座の隠れ家的な佇まいの「四季のおでん」。店内はカウンターのみ、14席の上品なつくりだ。関西風の薄味の出汁で食材のうまみを引き出し、一皿一品で供される。この日は牡蠣、白子、大根をいただく。柔らかく味が染み込んだ大根にはたっぷりのおかか。牡蛎や白子は、店主の丸山幸二さんが、毎日作る出汁にさっとくぐらせただけのようだが、甘く口の中でとろけるようだ。テーブルの上に置かれている祇園・原了郭の黒七味を一振りすると、また味が引き立つ。〆には、もちやうどんもいい。壁に、グラフィックデザイナーの長友啓典氏、作家の伊集院静氏と先代の店主三嶋宏さん合作の「わてが浪速の おでんだす 喰いなはれ 呑みなはれ 酔うて 千里を駆けなはれ」と書かれた粋な額が。春は笥や蛍烏賊、夏は饅や妓など、四季折々の句の食材をいただく楽しみと、銀座ならではの大人の雰囲気を味わえるおでん屋さんだ。
〔住〕中央区銀座8-6-8 銀座福助ビル1階 〔問〕03-3289-0221
尾張家
JR神田駅南口から徒歩約2分。昭和2年創業で90年を超える老舗である。シベリア出兵した義父が復員後始め、女将の長江操さんは尾張家に嫁いできたお嫁さんで二代目になる。今は次男の寛さんとお店を切り盛りしている。女将さんは、早朝から種を吟味し仕込みをやり、閉店時間まで店に立つ。自らの手で仕込むキャベッ巻は、人形町日山の合挽き肉を使い、値段は長い間変わっていない。鰹節、煮干し、昆布でとった出汁は一切添加物を加えていない尾張家の味だ。1階はカウンター21席、小上りもあり、2階、3階は個室もある。カウンターには予約の席札が置かれ、子約の電話も鳴りっぱなし。「会社や銀行のお偉いさんも来るけど、そういう人は偉ぶらないねえ」と女将さん。懐にも優しく、女将さんの笑顔に癒されるおでん屋さんだ。
〔住〕千代田区鍛冶町1-6-4 〔間〕03-3251-4320