22.05.10 update

野暮を嫌い、粋を重んじる江戸っ子には「そば」を愉しむ流儀がある

かんだやぶそば

いわゆる「藪御三家」で最も古いのが「かんだやぶ」。初代堀田七兵衛氏から数えて現当主・康彦さんは4代目に当たる。せいろうそばは、せいろうならしをしているのでほぐれやすくなっている。天たね(みつばとゆずをあしらった芝海老のかき揚、定番3種(そばずし、もろきゅう、ホタテ焼き)と季節もの2種(写真は夏場の枝豆と新生姜のかき揚げ)を組み合わせた五菜盛り合わせを肴に菊正宗で一献。旬の食材を使った季節変わりのそばも人気がある。
〔住〕千代田区神田淡路町2-10 〔間] 03-3251-0287


江戸蕎麦 ほそ川

埼玉の人気そば屋が両国に移ってきた。江戸蕎麦を謳う細川貴志さんにとっては格好の場所である。ご自身でそばを育てているという細川さんいわく、しっかりとした濃い目のつゆが「東京のそば」だと。l2月いっぱい冷・温でいただける釧路産の大ぶりの牡蛎が4個乗る牡蛎そばを作っていただいた。つなぎを使わない十割そばの力強い風味、滑らかさは江戸好み。蕎麦前にはぜひ本醸造の磯自慢を。蕎麦前のお供の、ほやとタイの塩から、煮穴子などと相性抜群。骨董じゃなく古道具が好きなんだという細川さんの器選びや店の設らいに江戸っ子に通じる洒落っ気を見た気がした。
〔住〕墨田区亀沢1-6-5 〔間〕03-3626-1125


眠庵 Nemurian

大正12年に建てられた民家に手を入れ、眠っているときのように気軽にそばと酒を楽しんでもらいたいと柳澤宙さんが2004年12月にオープン。そばと酒と豆腐の店と謳っている。小さな表札のかかった入口から玄関へ向かう細道は、料亭のような風情。産地の違うそばの二種もりは、産地によって香りも味も食感も違うことを実感させられる。日によって産地が変わるもり、自家製豆腐、牛肉と大根のバーボン煮、蟹漬け、わさび味噌、丸干いかなどを肴に喜久醉がすすむ。老舗の持つ佇まいを匂い立たせながらも、新しい風を香らせるそば屋である。
〔住〕千代田区神田須田町1-16-4 〔間〕03-3251-5300


おそばの甲賀

14年間続いた赤坂砂場から独立した甲賀宏さんが2007年12月にオープン。そばの挽き方、器の選び方にも気を配る甲賀さんの姿勢に魅せられた馴染客も多い。せいろ、いなか、鳥南蛮せいろ、豚ニラせいろ、天せいろなど。挽いたそば粉と挽いていないものを混ぜたそばがきは、最初は塩と山葵で、二口目は醤油でと食べ方を楽しめる。あさり、焼きはんぺん、天種など、つまみも江戸前。
〔住〕港区西麻布2-14-5 〔間〕03-3797-6860


おおたかずひこ エッセイスト。好きなそばは「ひやかけ」「天もり」「鴨なんばん」「カレー」。著書に『居酒屋百名山』『居酒屋道楽』『自選・ニッポン居酒屋放浪記』など。

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