21.12.02 update

芸能生活60周年を前に新作舞台に挑む 永遠の青春スター・舟木一夫

今の年齢とうまくつきあいつつ
60周年を迎える

  55周年を迎えるときは、目前の55周年ではなく、むしろその先の60周年を念頭に置いていると言っていた舟木。その60周年を来年に控えた今、舟木はどこを見据えているのだろうか。
「60周年から先、あと何年できるかわかりませんが、そのひとつの答えを今回の公演で僕が出せるのではないかなと思っているんです。つまり、現段階でまだ一か月間生で歌を唄い続けられるのか、というテーマがあります。もちろんやりますよ、という思いがあるから、お引き受けしたわけで、お引き受けした以上はどんなことがあれ、完走しなければいけない。そしてゴールテープを切った後に、どのくらい体力を消耗して、回復にどれだけの時間を要するのか、というのが自分で確認できれば、先の見通しがポッと開けてくる気がするんですよ。だから、今は55周年のときと違って5年先の何かを見据えて、積み立てていくというのではなくて、このハードルを越えたら次が見えるだろう、その次のハードルを越えたらさらに先が見えるだろう、というような見方になってきているような気がしますね」

 さらに、「来年、60周年を一年間なんとか走り続けることができるとすれば、ゴールの時点では78歳を迎えていてそこで初めて、80歳になっても現状を維持しつつ歌えるのか、ということがそこのタイミングで出てくるのだろうと思うんですよ。現時点では、まだそこまでは見通せない年齢になりましたね」と。

 舟木は自身を客観的に見つめる視線を持っている。舟木が4年前に語ってくれたことが思い出される。「やはり分相応というのが、大事であり、自分を楽にすることだと。自分を楽にすることができれば、ほかの人の気持にも眼がいくでしょう。だから、自分に甘いけど人にも甘いよ、というのが好きですね」というこの言葉には、人は誰しも互いにいろんなものを抱えて生きているのだ、という優しい眼差しが読み取れ、心に残っている。

 だから、客観的に自身を見つめつつも、あまり真面目にとらえ過ぎないというのが、舟木流の〝いい加減〟である。「現在の心と身体とうまくつきあいつつ、いや、大丈夫、何とかしてみる、といった感じで、楽観的というのとはまた違う、ある意味やんちゃっていう意味で、できるかなと思う反面、いやできるさ、という思いも同居しているわけです」

 娯楽時代劇とコンサートで構成するという現在では少なくなってきた興行形態ではあるが、楽しみに待つ多くの観客がいる限り、舟木一夫はその稀少な担い手として、時代の風を取り入れつつも芸能文化の継承のため、観客の前に登場してくれるはずだ。

 デビュー以来、声をつぶしたことは一度もないという舟木一夫が70代、80代の声で歌う「高校三年生」は、青春の歌声として永遠に聴く者の心に響くに違いない。「高校三年生」に出会ったことで、一生現役流行歌手として「高校三年生」を歌い続ける宿命は、60年前に決まっていたのだ。


ふなき かずお
歌手、俳優。1944年12月12日、愛知県一宮市生まれ。63年6月5日、「高校三年生」で歌手デビュー、「高校三年生」は発売半年で100万枚を超える大ヒットとなった。同年には同名映画『髙校三年生』で映画デビューを飾った。同年の日本レコード大賞新人賞を受賞し、NHK紅白歌合戦にも初出場を果した。紅白歌合戦には通算10回出場。ゴールデンアロー賞の第1回新人賞も受賞。デビュー2年目でNHK大河ドラマ第2作「赤穂浪士」に矢頭右衛門七役で時代劇初体験、その後大河ドラマには「源義経」「春の坂道」「毛利元就」にも出演している。また、「夕笛」「初恋」など詩歌、文学をモチーフにした叙情歌謡と呼ばれるジャンルで第一人者的存在となり、66年には「絶唱」で日本レコード大賞歌唱賞を当時最年少で受賞、映画化もされ大ヒットした。映画監督&脚本家の松山善三の長編抒情詩を舟木の歌唱で綴るアルバム『その人は昔』は画期的な企画で当時のLPとしては記録的な売上となり、やはり映画化もされた。代表曲に「修学旅行」「学園広場」「仲間たち」「あゝ青春の胸の血は」「君たちがいて僕がいた」「花咲く乙女たち」「北国の街」「高原のお嬢さん」「哀愁の夜」「友を送る歌」「銭形平次」「浮世まかせ」「春はまた君を彩る」など多数。また、ヒット曲の多くが映画各社で映画化されている。テレビドラマでも「雨の中に消えて」「あいつと私」「泥棒育ちドロボーイ」「愛しすぎなくてよかった」(脚本:内館牧子)、12時間ドラマ「赤穂浪士」(清水一学役)、NHK連続テレビ小説「オードリー」など数多く出演している。近年は、大劇場でのシアターコンサートをはじめ年間50日を超える全国でのコンサート(昼夜2公演)を実施している。01年に松尾芸能大賞を受賞。

1 2 3 4

映画は死なず

新着記事

  • 2024.12.03
    きわどい熟年女性の性愛表現から母の優しさまでフラン...

    『山逢いのホテルで』見どころ

  • 2024.12.03
    東京ステーションギャラリー「生誕120年 宮脇綾子...

    応募〆切: 1月20日(月)

  • 2024.12.02
    橋幸夫・舟木一夫・西郷輝彦・三田明の青春歌謡四天王...

    松竹青春歌謡映画のヒロイン 尾崎奈々

  • 2024.12.02
    大注目のボートレーサーが集結した「2025年 BO...

    応募〆切:12月20日(金)

  • 2024.11.28
    第5回【東宝映画スタア☆パレード】酒井和歌子&内藤...

    文=高田雅彦

  • 2024.11.28
    クリスタルキングが歌唱した「大都会」の唯一無二のハ...

    クリスタルキング「大都会」

  • 2024.11.27
    第55回【萩原朔美 スマホ散歩】いまどきのカバン考...

    見事な自己表現!

  • 2024.11.25
    クリスマス・イブに手塚治虫の歴史的名作が蘇る!映画...

    応募〆切:12月15日(日)

  • 2024.11.21
    「星影のワルツ」「北国の春」という2つの大ヒット曲...

    千昌夫「夕焼け雲」

  • 2024.11.20
    能登の子どもたちや被災者を、美しい音楽で励ましてく...

    被災者に勇気を与えるウイーン・フィルの活動

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!