夢にも思わなかった女優・佐久間良子との仕事
「演出家の意図に副うカンの良さを持ち、「NO」という言葉をはすることがない。それが佐久間良子という女優のプロフェッショナルたる所以だ」
で、得た構想は世界劇『源氏物語』だった。
光源氏は市川新之助、帝は市川圏十郎。となると藤壺は佐久間良子しかいないではないか。出演交渉すると、意外や意外、快諾を得た。その時が、生の佐久間良子と、現実世界で話をした最初であった。この世界劇『源氏物語』(甲斐正人作曲) は二〇〇〇年の大晦日、東京国際フォーラム大ホールで昼夜二回にわたって上演し大好評を得た。ほかの女優陣を聞いて驚くなかれ。紫の上は宮沢りえ、六条御息所は松坂慶子、葵の上は萬田久子、朧月夜の君は池上季実子、末摘花は片桐はいり、まだまだ、草笛光子、吉行和子、南果歩、多岐川裕美、白石加代子、高汐巴、田中ちなみ。これらの女優陣の頂点にあって、しっかと全体を束ね、美しさと貫禄においても演技においても絶対的存在感と輝きを佐久間良子ははなってくれたのだった。
その年の春、私は『長崎ぶらぶら節』で直木賞を受賞していた。この小説は映画化、ドラマ化もされたが、私と佐久間良子はなんとはなしに気持の通じる間柄になっていて、帝国劇場での一か月公演は当然のことながら佐久間さんに主演をお願いした。それにつづいて書いた『てるてる坊主の照子さん』はNHKの朝ドラ「てるてる家族」となったが、これもよた帝国劇場での一か月公演は佐久間さんに主演をお願いした。
若き日には夢にも思わなかったことなのに、私は佐久間良子とこんなにたくさん仕事をしている。なんとも人生とは不思議なものではないか。そしてなお現在は、世界劇『黄金の刻(とき)』(小六禮次郎作曲)に安寿と厨子王の母親、芳乃の役で初演からひきつづき出演していただいている。この芳乃は実は山檄太夫の妻でもあり、難しい役なのだが、どうやら佐久間さんは、世界劇そのものを楽しんでくれているらしい。今年(2011)は十月二十九日土曜日、武道館で上演される。
時は流れたけれど、しかも幸運に仕事もご一緒しているけれど、私は永遠に、どこまでも美しく哀切で限りなく艶やかな、まさに絵に描いたような大輪の花、女優佐久間良子を敬愛してやまない。