安宅英一氏(1901~94)といえば、昭和の財界有数の数寄者として知られ、その美意識と審美眼には格段の定評があった。彼によって収集された961件の東洋陶磁こそ「安宅コレクション」と呼ばれ輝ける存在だったのである。しかし事業の一環として1951年(昭和26)から四半世紀にかけて収集された名品たちは、安宅産業の経営破綻により散逸の危機に直面。一旦は、大阪市に寄贈され「大阪市立東洋陶磁美術館」の建設に乗り出した住友グループの社会貢献活動の支援によって守られたのだった。1982年11月開館から今日に至るまで「大阪市立東洋陶磁美術館」の中核をなしてきた、国宝2件、重要文化財11件を含む名品101件が、同館設立40周年のリニューアルを機に、東京にはじめてお目見えする。
特に、「第一章 珠玉の名品」では、唐時代のふくよかな《加彩 婦女俑》は門外不出といわれる。「美人」像の象徴であり、頭を傾げた様子が何ともチャーミング。名だたる画家たちが賛美したと伝えられ、この機会にしか見ることのできない、と強調するのは主催する「泉屋博古館東京」の野地耕一郎館長。
また、「第二章 韓国の美」では、安宅コレクションの中でも世界有数の質と量を誇る韓国陶磁で、高麗時代、朝鮮時代を代表する名品が展示されている。その柔らかな美しさは、安宅英一氏の美の基準となった〝品があること〟。安宅コレクションの端を発したともいえる安宅氏の〝美の基準〟を垣間見ることができる。
「第三章 中国陶磁の美」は、宋・元・明時代を中心として、昭和40年代に入手した鴻池家伝来の国宝《飛青磁 花生》(中国 元時代14世紀)、酒井家伝来の国宝《油滴天目 茶碗》(中国 南宋時代12-13世紀)、加賀前田家伝来の重要文化財《木葉天目 茶碗》(中国 南宋時代12-13世紀)がお目見えする。
安宅氏は、ねらった作品を手に入れるために長い時間をかけ、入念に策を練ったと言われている。「三種の神器」を収集するまでのエピソードなども紹介され、その審美眼と〝美の執念〟に思いを馳せながら名品を堪能したい。
「特別展 大阪市立東洋青磁美術館 安宅コレクション名品選101」の会期は、3月18日(土)~4月16日(日)前期、4月18日(火)~5月21日(日)後期。(住友コレクションとのコラボレーションにより、前期展示される高麗仏画の重要文化財《水月観音像》と、後期展示されるのは中国絵画の国宝《秋野牧牛図》が鑑賞できる。)