24.03.01 update

なぜ世田谷区はアーティストの街になったか。その2「世田谷美術館」で開催中の「美術家たちの沿線物語 小田急線篇」で腑に落ちた!

「美術家たちの沿線物語」と題した本展は、2020年「田園都市線・世田谷線篇」から始まり、2022年「大井町線・目黒線・東横線篇」、「京王線・井の頭線篇」(本年度、同時開催)とつづき、完結篇として「小田急線篇」が2月17日(土)から開催されている。沿線ゆかりの美術家や文化人たちが浮かび上がり、「世田谷の美術」を新たな視点で紹介しているが、なぜ世田谷区はアーティストの街になったのか、本展を3回に分け紐解いてみたい。

■ 祖師ケ谷大蔵駅から千歳船橋駅あたり
 日本画家の山口蓬春は1939年(昭和14)、吉田五十八の設計で祖師谷に画室を構えた。シュルレアリスムの紹介者として知られ、戦前、戦後をつうじて活躍した画家の福沢一郎 (1898-1992)は、1951年(昭和26)から祖師ケ谷大蔵駅にも程近い宇奈根798(現在の砧8丁目)に居を構えアトリエは現在、福沢一郎記念館となっている。また、1960年代にはこの付近に画家の谷内六郎 (1921-1981)、庫田叕 (1907-1994)、青山龍水 (1905-1998)らも居住していた。孫の青山悟 (1973-)はロンドンでテキスタイルアートを学び、ミシンを用いた刺繍作品を展示している。版画家の吹田文明 (1926-)も、砧にアトリエを構える作家だ。日本画家の吉田善彦 (19l2-2001)は、1965年(昭和40)画室を構えたが、ここでは、小田急沿線を描いた洋画家・池辺一郎 (1905-1986)のスケッチも紹介している。

■ 経堂駅、豪徳寺駅あたり
 小田急経堂アパートに入居していたのが、ジャズ・映画評論家の植草甚一(1908-1979)。この界隈には多くの芸術家が住み、美術家たちの集い「白と黒の会」も生まれた。1920年代後半から30年代にかけて、北側には日本画家の小川千甕(1882-1971)や彫刻家の柳原義達 (1910-2004)、南側には洋画家の石川滋彦(1909-1994)、松本弘二 (1895-1973)、内田巌 (1900-1953)、難波田龍起 (1905-1997)が居を構えた。本展では若くして亡くなった龍起のふたりの息子、難波田紀夫 (1940-1975)、難波田史男 (1941-1974)の絵画作品も紹介している。彫刻家の舟越保武 (1912-2002)もアトリエを構え、長男の舟越桂 (1951-)、次男の舟越直木 (1953-2017)も、彫刻家としてそれぞれの表現を展開した。

荒木経惟〈東京日和〉より 1992年 世田谷美術館蔵

 隣駅の豪徳寺駅は、東急世田谷線山下駅と接続している。豪徳寺駅北側には、彫刻家の土谷武 (1926-2004)が移住。駅の南側には、日本画家・横尾深林人(1898-1979)は「白と黒の会」の最も古いメンバーだった。1930年代には洋画家の須田寿 (1906-2005)や彫刻家の本郷新 (1905-1980)もこの地に移ってきた。”日本のゴーガン”と呼ばれた彫刻家・土方久功 (1900-1977)は1942年(昭和17)結婚を機に新居を構えた。写真家の荒木経惟(1940-)は、住んでいた豪徳寺界隈を散策しながら撮影した作品を展覧している。豪徳寺から小田急線に乗り、亡き妻・陽子との思い出の残る谷中に出かけて、陽子との共著として『東京日和』(1993年)に収めた。同じく豪徳寺に住む写真家夫妻の島尾伸三 (1948-)と潮田登久子(1940-)は、それぞれに娘の成長する何気ない日々を記録。島尾の写真集『まほちゃん』と潮田の『マイ・ハズバンド』、そして、被写体となった娘でエッセイストのしまおまほ (1978-)の著作も展覧している。

〈白と黒の会について〉小田急も経堂、豪徳寺かいわいといえばちょっと田舎だが、画家、彫刻家の先生方が沢山いる。下駄ばきで市場で野菜をぶらさげていたり、子供をこわれた自転車のうしろにのっけて走っていたり、一ぱい屋ののれんを「先生またね」などといわれながらいいきげんで出てくる先生がいたりする。そんな連中が時々、何というわけもなく集まり、食ったり飲んだり、画いたり作ったりして、白と黒の会となるのである。
本郷新「みんな会長だと思っている」『東京新聞』1955年12月30日より)

次回は、〈梅が丘駅から世田谷代田駅あたり>と〈下北沢駅から東北沢駅あたり〉をお伝えします。

(本稿は世田谷美術館発行のガイドブックを参照)

「美術家たちの沿線物語 小田急線篇」は、世田谷美術館にて、2024年4月7日(日)まで開催。毎週月曜日休館。10:00~18:00まで(最終入館17:30)

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