世界最古の古書店はロンドンにある1761年創業のヘンリー・サザランと言われている。日本では明治以降、新刊書店と古書店が分けられるようになって、どの町にも古書店があった。年輩の店主が店の奥でどっしり構えて店番をしている、今ではそんな光景は見かけなくなった。昨今はネットで本が買える時代になり、町の新刊書店さえも淘汰されている。
本作品『丘の上の本屋さん』の舞台はイタリア中部に位置するチヴィテッラ・デル・トロント。現在でも石畳や歴史を感じる石造りの家が多く、古き良きヨーロッパの風景が残っており、〝イタリアの最も美しい村〟のひとつと言われている。その風光明媚な丘陵地帯を見下ろす丘の上に小さな古本屋がある。そこには、長年古本屋を営んできた年輩の店主リベロがいる。彼の人柄を慕い、個性あふれる人々が集まってくるのだが、その中に店の外で本を眺める移民の少年、エシエンがいた。
リベロ爺さんは、本を買えないエシエンに声をかける。好奇心旺盛で利発なエシエンに、コミックから児童文学、中編小説、長編小説、さらに専門書と次々に本を貸し与える。エシエンから感想や意見を聞きながら、リベロ爺さんは様々な知識やものの見方、考え方など、ジャンルを超えて叡智を授けるのだ。
エシエンの母国は、アフリカ大陸のサハラ砂漠の南に位置する小さな国のブルキナファン。マリやコートジボワール等6か国と国境を接している内陸国で、天然資源も限られている、世界で最も貧しい国のひとつ。水不足、食糧、衛生など子供たちは多くの問題に直面し、5歳未満の死亡率は日本の44倍。エシエンのような利発な子でも教育を受ける機会が限られているのだ。イタリア、日本にも貧困問題はあるが、世界にはそれとは比較にならないほどの過酷な環境にいる子供たちのことを忘れてはならないと、ユニセフ・イタリアがパートナーとして参加しているのも頷ける。リベロ爺さんの思いは子供たちへの古書を通じた無償の愛であり、ユニセフ親善大使の黒柳徹子さんも、「本を読むことは素晴らしいこと。本を読むことで世界が広がる。少年の未来は明るいでしょう」と本作へメッセージを寄せている。
最後に、リベロ爺さんが、エシエンに薦めたブックリストを記しておきたい。
「ミッキーマウス」「ピノッキオの冒険」「イソップ寓話集」「星の王子様」「白鯨」「密林の医師 アルベルト・シュヴァイツァー博士の生涯と作品」「アンクル・トムの小屋」「白い牙」「ロビンソン・クルーソー」「ドン・キホーテ」と、もう一冊重要な本がある。これらの本は、エシエンに読書の素晴らしさを教えてくれた「幸せのブックリスト」である。
そして、リブロ爺さんの発禁本棚にあったのは、「デカメロン」「痴愚神礼讃」「君主論」「ガルガンチュアとパンタグリュエル」「天文対話」「純粋理性批判」「ボヴァリー夫人」「種の起源」「ドリアン・グレイの肖像」「チャタレイ夫人の恋人」「さびしさの泉」「北回帰線」「怒りの葡萄」「ロリータ」「生命ある若者」「ドクトル・ジバゴ」「アラバマ物語」「蜜の証拠」。大人になったエシエンが読むのにいい本かもしれない。 配給:ミモザフィルムズ
『丘の上の本屋さん』は、3月3日(金)より、新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー