23.03.27 update

水谷豊、23年ぶりの舞台に集まったすばらしき仲間たち  シス・カンパニー公演『帰ってきたマイ・ブラザー』

 昨年70歳を迎えた水谷豊の舞台出演のニュースに新鮮な驚きを覚えた。と同時に、2000年に上演された水谷豊主演の舞台『陽のあたる教室』がよみがえってきた。劇場は今回と同じく世田谷パブリックシアターだった。水谷が演じたのは、映画でリチャード・ドレイファスが演じた音楽教師で、手話つきで、ジョン・レノンの「ビューティフル・ボーイ」を歌うという印象的なシーンがあった。1966年に14歳での初舞台は、山﨑努、岸田今日子、高橋昌也、小池朝雄、橋爪功ら、当時劇団「雲」の俳優たちとの共演だった。『陽のあたる教室』は2度目の舞台で、それ以来約23年ぶり、3度目の舞台出演が本作である。

 その昔、大ヒットを放ったこともある兄弟グループ<ブラザー4(フォー)>だが、あっという間に表舞台から姿を消してしまう。ところが、4兄弟の昔の曲が、ひょんなことから令和の現代に再浮上し、4兄弟の存在も再び脚光を浴びることになる。それぞれの道を歩み、バラバラの人生を送ってきた兄弟たちは、果たして往年の歌声と絆で、再結成の日を迎えることができるのか。

 この4兄弟のキャスティングが贅沢だ。長男に水谷豊、次男には『セールスマンの死』で本年度読売演劇大賞で最優秀男優賞に輝いた段田安則、三男には、舞台、テレビドラマに引っ張りだこで、そして初主演映画『向田理髪店』も話題の高橋克実、四男にはこれまた舞台、映像作品と八面六臂の活躍で、舞台『みんな我が子』、ドラマ「ファーストペンギン」の演技も記憶に新しい堤真一。4人が実年齢通りの並びで4兄弟を演じる。堤真一は、テレビのインタビュー番組で、中学生時代から憧れの人だった水谷豊と同じ舞台に立つことが信じられない、と語っていたが、段田、高橋にとっても同じ思いではなかろうか。

 彼らのかつての熱狂的なファンを演じるのは、峯村リエと池谷のぶえ。この2人がそろって登場するだけでもワクワク、ニヤニヤである。さらに、さらに、兄弟グループのかつてのマネージャーを演じるのが、テレビドラマシリーズ「相棒」で久しぶりに水谷とバディを組んだ寺脇康文という、何とも粋な計らいのキャスティング。

 脚本を手がけるのは、俳優、脚本、演出家として舞台と映像の両分野での幅広い活躍を見せ、現在も舞台『歌うシャイロック』で軽妙な演技で観客をわかせているマギー。そして、俳優、声優、脚本家、演出家、加えてダンス・カンパニー<コンドルズ>の旗揚げから参加し、コント部門の脚本も手がけ、NHK Eテレで放送中の「みいつけた!」のオフロスキー役が人気を集めている、マルチな才能の持ち主小林顕作が、本作の演出家として、シス・カンパニー公演に初参戦と、話題はつきない。

 それにしても、古希を過ぎた水谷に、約四半世紀ぶりの舞台出演を決意させたものは何だったのだろうか。宣伝用写真の撮影時に「人生では最年長、舞台役者としては最年少。この先、舞台をやるかどうかは、この舞台にかかっています!」とコメントしているが、70代の水谷が舞台に意欲を燃やしていることは、演劇ファンにとっては嬉しいかぎりである。2度目の舞台の音楽教師役に続いての音楽がらみの役。そういえば、水谷自身の監督作である映画『太陽とボレロ』でも、水谷は指揮者を演じていた。本番の舞台で、<ブラザー4>がどんな曲を披露するのかも興味津々である。ムード歌謡なのか、ドゥーワップ系なのか、歌って踊るポップスなのか、できれば全部観てみたい。キャスト、脚本家、演出家、そしてこの舞台に関わるすべての人たちが、この芝居を楽しんで創っているに違いないと想像するだけでも顔がほころんでくる。この舞台の初日は春爛漫の4月1日である。

作:マギー 演出:小林顕作
出演:水谷豊 段田安則 高橋克実 堤真一
寺脇康文 池谷のぶえ 峯村リエ

1 2

映画は死なず

新着記事

  • 2024.12.05
    雨の日に聴きたくなる「レイニーブルー」を歌った徳永...

    徳永英明「レイニーブルー」

  • 2024.12.03
    きわどい熟年女性の性愛表現から母の優しさまでフラン...

    『山逢いのホテルで』見どころ

  • 2024.12.03
    東京ステーションギャラリー「生誕120年 宮脇綾子...

    応募〆切: 1月20日(月)

  • 2024.12.02
    橋幸夫・舟木一夫・西郷輝彦・三田明の青春歌謡四天王...

    松竹青春歌謡映画のヒロイン 尾崎奈々

  • 2024.12.02
    大注目のボートレーサーが集結した「2025年 BO...

    応募〆切:12月20日(金)

  • 2024.11.28
    第5回【東宝映画スタア☆パレード】酒井和歌子&内藤...

    文=高田雅彦

  • 2024.11.28
    クリスタルキングが歌唱した「大都会」の唯一無二のハ...

    クリスタルキング「大都会」

  • 2024.11.27
    第55回【萩原朔美 スマホ散歩】いまどきのカバン考...

    見事な自己表現!

  • 2024.11.25
    クリスマス・イブに手塚治虫の歴史的名作が蘇る!映画...

    応募〆切:12月15日(日)

  • 2024.11.21
    「星影のワルツ」「北国の春」という2つの大ヒット曲...

    千昌夫「夕焼け雲」

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!