長塚圭史芸術監督のもと3年目となる、神奈川芸術劇場2023-2024メインシーズンのシーズンタイトルは「貌(かたち)」。さまざまな意味を持つ「貌」を、多彩なラインアップを通して、さまざまな角度から「貌」を見つめている。そして、2023年12月、「貌」シーズンの<ホール>公演が開幕した。筒井康隆が1980年代に発表した傑作小説『ジャズ大名』の舞台化である。江戸末期、アメリカから漂着した黒人奴隷と出会った音楽好きの藩主が、彼らの奏でる音楽の虜となり、城中でジャム・セッションを繰り広げる姿を描く奇想天外なコメディで、1986年には、岡本喜八監督、古谷一行主演で映画化もされている。
今回は小説から新たに上演台本を書き起こし、原作の精神を令和の世に蘇らせるという。物語の舞台を原作の九州の小藩から、実在した神奈川・小田原藩の支藩、荻野山中藩に置き換え、神奈川の史実を織り込んだアレンジを加えることで、神奈川を拠点とするKAATならではのオリジナル作品を創りあげるというもの。
簡単にあらすじを紹介すると、維新の嵐が吹き荒れる江戸末期、アメリカの南北戦争が終結し、解放された黒人奴隷が故郷のアフリカを目指して船に乗り込むが、日本の小藩に流れ着いてしまう。鎖国の時世、外国人の扱いに困る藩の役人たちは彼らを座敷牢に閉じ込めるが、好奇心旺盛な藩主は彼らの奏でる楽器の音に夢中になり、家老の制止も聞かず、次第に城中を巻き込んでジャム・セッションを繰り広げていく。
上演台本と演出は、生活感あふれる日常的な光景が、飛躍を重ねて宇宙規模のラストへと結実するような物語創作と、少人数の俳優が多くの役を演じ分ける独創的なスタイルが持ち味で、舞台のみならず映像界でも多くの作品に携わる福島充則。深い人間洞察を笑いのベールに包んで表現し魅せる芝居を提供している。脚本を手がけた日本テレビ系列で放送された連続ドラマ「あなたの番です」は、社会現象とも言える大きな話題を呼んだ。
音楽好きの藩主を演じるのは、映像作品のみならず『危険な関係』『ポーの一族』『世界は笑う』など、舞台でも意欲的に出演を重ねている千葉雄大。家老役には、芸人、歌手、俳優とマルチな活動を続け、近年の舞台でも蓬莱竜太作・演出の『広島ジャンゴ2022』、こまつ座『雪やこんこん』、宮藤官九郎作・演出『愛が世界を救います(ただし屁が出ます)』、三谷幸喜作・演出『大地(Social Distancing Version)』など、幅広いジャンルの作品で魅力を発揮している藤井隆。
初日前会見に、福島充則、千葉雄大、藤井隆、そして現在連続テレビ小説「ブギウギ」にも出演中で、今回は複数の役を演じ分けながら狂言回しの役割を担う富田望生が顔を揃えた。