散歩は、街を一冊の本のように読むことだ。だから、スマホでの撮影は、読書感想を忘れないための、メモ書きみたいなものなのだ。この「スマホ散歩」を読んでくれた人が、それぞれの街を読書し始めたらとても嬉しい。何か楽しい風景に出会えることを願っている。
第59回 2025年3月31日
道端で見かけると、思わず近寄ってシャッターを押してしまう。
撮影したくなる落とし物には2種類あって、一つは、沢山落ちているもの、もう一つは、何だこれ、と思えるものだ。
沢山の筆頭はマスク。コロナの流行から目立って路上に出現し出した。今でも衰え知らずで、一回の散歩で幾つも撮影し続けている。現在500カットだ。

手袋も多い。脱げたら手が冷えるから分かりそうだけれど、毛糸の帽子もよく見かけるから、案外寒さは気づかないものかも知れない。

傘が多いのは、晴れたら持っていた事を忘れてしまうからなのだろう。
この前は、点灯したままの懐中電灯が落ちていた。どういう事か分からない。

昨日は、金髪お下げのカツラが落ちていた。片方だけになったら誰かが教えてあげたらいいのにと思う。

その他、靴下、ハンカチ、ホカロン、縄跳び、ヘヤーバンド、名札など写真は溜まる一方だ。(笑)
多分何年も撮影し続けていると、時代の変化が現れてくるのではないかと感じている。落とし物撮影は考現学のフィールドワークみたいなものだろう。やめられないのだ。
はぎわら さくみ エッセイスト、映像作家、演出家、多摩美術大学名誉教授。1946年東京生まれ。祖父は詩人・萩原朔太郎、母は作家・萩原葉子。67年から70年まで、寺山修司主宰の演劇実験室・天井桟敷に在籍。76年「月刊ビックリハウス」創刊、編集長になる。主な著書に『思い出のなかの寺山修司』、『死んだら何を書いてもいいわ 母・萩原葉子との百八十六日』など多数。現在、萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館の特別館長、金沢美術工芸大学客員教授、前橋市文化活動戦略顧問を務める。 2022年に、版画、写真、アーティストブックなどほぼ全ての作品が世田谷美術館に収蔵された。