23.06.27 update

第28回 新東宝も〝定番〟ロケ地は成城 Vol.2

 成城の街並みや商店街が見られる新東宝作品には、以前ご紹介した、戦犯死刑囚問題を扱った力作『モンテンルパの夜は更けて』(52年/青柳信雄監督:見られるのは成城南口商店街)、佐分利信が監督したメロドラマ『慟哭』(同:小田急線踏切)、雪村いづみが元気な女学生を演じた『乾杯!女学生』(54年/井上梅次監督:北口商店街)、前述の‶スーパージャイアンツ〟シリーズ中の『鋼鉄の巨人 怪星人の魔城』と『同 地球滅亡寸前』(57年/石井輝夫監督:北口商店街と駅前広場)、のちに「ウルトラセブン」でキリヤマ隊長を演じる中山昭二主演の『殺人犯 七つの顔』(59年/三輪彰監督:旧成城警察署)などがある。

 面白いのは、天知茂が‶悪漢〟憲兵に扮した『憲兵と幽霊』(58年中川信夫監督)で、戦時中との設定にもかかわらず成城商店街の店先が(多少の装飾は施されているが)そのまま使われていることである。それだけ成城の商店街が古臭かった(?)ことの表れで、江利チエミの『サザエさん』シリーズ(56年~:東宝)に下町商店街として登場することも心から納得できる。天知茂の新聞記者が地方都市のボス・丹波哲郎の悪事を暴く『無警察』(59年/小森白監督)は、静岡らしき地方都市で展開されていたカーチェイスがいきなり成城に移るという出鱈目さ(?)が魅力だ。

 新東宝末期作品の『胎動期 私たちは天使じゃない』(61年/三輪彰監督)は、看護婦養成学校で‶白衣の天使〟の卵たちが苦闘する物語。新藤兼人の脚本だけに、粘りっこい展開に唸らされるうえ、豪華女優陣の出演も見もの。学校の最寄り駅は「東海医大前」という設定だが、ロケ地は成城学園前駅の南口で、昭和30年代の橋上駅舎(改札口が二階にある)の姿が確認できる。当南口をP.C.L.社長(当時)の植村泰二が資金を拠出して造ったことなど、地元の方でもご存知の方は少ないだろう。

▲ノスタルジーを覚える1976年の成城学園前駅南口風景 写真提供:成城学園教育研究所 画像処理:PaC TalZ/岡本和泉

 植木等の出世作『ニッポン無責任時代』(62年/古澤憲吾監督:東宝)や園まり主演の歌謡映画『逢いたくて逢いたくて』(66年/江崎実生監督:日活)などでロケ地となったのが、成城五丁目にあった旧中村邸である。大谷石の土坡(どは)の上に生け垣が配された外周は、成城学園が街づくりを始めたとき以来の典型的スタイルで、大映が制作したテレビドラマ「少年ジェット」(59~60年:CX)でも、ジェットとブラックデビルの対決シーンが当邸宅前で撮影されている。
 そんな成城らしい大邸宅に、某国諜報組織の地下基地が作られているという荒唐無稽の設定の映画が『地下帝国の処刑室』(60年)という新東宝映画だ。監督は成城に居住した並木鏡太郎で、のちに成城に住まう宇津井健扮する公安Gメンが捜査に当たる。ラストの銃撃戦で見られる中庭の光景は、『ニッポン無責任時代』のセットとほぼ同じ。どちらも実際の中村邸を模してセットを造ったことが窺える。近距離で撃ち合っているのに、ほとんど弾が当たらないのは「月光仮面」(58~59年:KRテレビ)と同様。社長・大蔵貢のモットー「安く、早く、面白く」どおりのチープな展開で、当時の観客も新東宝の行く先を案じたに違いない(倒産は翌61年のこと)。
 当中村邸は、新東宝最末期の『狂熱の果て』でも、六本木族の若者が騒ぎを起こす大富豪の家として登場。その後も長く建物をとどめていたが、今では別の豪邸に建て替わっている。

 ほんの一部の作品しか見ていない筆者でも、これほど多くの成城の風景を発見できたのだから、新東宝作品には他にもたくさんの‶成城ロケ映画〟があるはず。今後も上映・放映の折には、目を皿のようにして見なければなりません。

(註1)砧小学校は、『青い山脈』(49年/今井正監督)で原節子が教師を務める女学校、同じく東宝の『あすなろ物語』(55年/堀川弘通監督)では主人公の少年(久保賢)が通う学校として登場。両撮影所からも近く、歴史を感じさせる校舎だったことから、様々な映画でロケに使用された。


高田 雅彦(たかだ まさひこ)
1955年1月、山形市生まれ。生家が東宝映画封切館の株主だったことから、幼少時より東宝作品に親しむ。黒澤映画、クレージー映画、特撮作品には特に熱中。三船敏郎と植木等、ゴジラが三大アイドルとなる。東宝撮影所が近いという理由で選んだ成城大卒業後は、成城学園に勤務。ライフワークとして、東宝を中心とした日本映画研究を続ける。現在は、成城近辺の「ロケ地巡りツアー」講師や映画講座、映画文筆を中心に活動、クレージー・ソングの再現に注力するバンドマンでもある。著書に『成城映画散歩』(白桃書房)、『三船敏郎、この10本』(同)、『七人の侍 ロケ地の謎を探る』(アルファベータブックス)、近著として『今だから! 植木等』(同2022年1月刊)がある。

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