23.03.29 update

第9回 帯津良一と七人の女

人生百年時代――とはいえ、老いさらばえて100歳を迎えたくはない。
健康で生気みなぎるような日々を過ごせてこそ、ナイス・エイジングだ!
西洋医学だけでなく東洋医学、ホメオパシー、代替医療まで、
人間を丸ごととらえるホリスティック医学でガン治療を諦めない医師、
帯津良一の養生訓は、「こころの深奥に〝ときめき〟あれ」と説く。


帯津良一・87歳のときめき健康法

文=帯津良一

 先日、私の病院の初代総師長で、今は亡き山田幸子さんの若い時の写真が送られてきた。送り主は、これまたわが病院の初代鍼灸師の小林健二さんです。山田さんが恐らく40代半ば、病院開設時の写真です。じつに好い顔をしています。私自身、山田さんの写真は何十枚と持っていますが、今度のがいちばん美人です。

 なんでも、山田さんの墓参りに行って来て、どうしてもこの写真を先生にお送りしたくなったと認めてあります。小林さんの気持ちが痛いほどよくわかります。三人は大の仲良しでしたから。

 病院開設前は、東京都のがんセンターとしてスタートしたばかりの都立駒込病院で、外科医として食道がんの手術に明け暮れ精を出していました。食道がんの手術を受けた患者さんは術直後数日間はかならず集中治療室(ICU)で過ごします。だからICUの看護師さんとは苦楽を倶(とも)にする戦友の関係になります。その日の仕事を終えた者同志が連れだって酒を酌み交わすことも日常茶飯事です。

 そして、総師長といえば病院運営の要です。そこで、どうしてもICUのスタッフのなかから選ぼうとして彼女に白羽の矢を立てたのでした。江戸っ子らしい正義漢の彼女は少し怒りっぽいところがありましたが、じつによくやってくれました。ホリステック医学という未知の世界を突き進む私を心地よく支えてくれました。

 ところで彼女と私は同い年。79歳のときに、もう体力的に限界ですからと言って戦列を離れました。と同時にご先祖の墓仕舞いをし、自分の生前葬を済ましたあと、

「これからは先生の足になります」

 と言って私の運転手を買って出てくれたのです。運転上手な上に東京の地理にも詳しい彼女のことです。非常に重宝したものです。

 そうして3年ほどした頃から彼女の下半身が弱り出したのです。整形外科でいうロコモーティブ・シンドロームです。運転もこれまでもなく慎重になるとともに私の運転手も辞退したと思いきや、運転免許証を返上し、車も売り払ってしまいました。行動範囲が急に狭くなったこともあって、彼女はうつ的になって来ます。あるとき

 「私、もう死にたい! 先生いっしょに死んで!」
  「まあ、…そう言うなよ……」

  と宥めました。

 日を置いて、これを三回繰り返したあと、もう一度言われたらいっしょに死んでもよいかなと思った矢先に彼女は一人旅立っていきました。いまや本と酒の山の間から、モーリン・オハラ、角梨枝子(すみりえこ)、野際陽子、バー・フローラのママさんの永井せい子、鰻の久保田の久保田守子、山田幸子、そして家内の稚子(わかこ)の写真が私を見つめています。

  帯津良一と七人の女。

  映画にしてみたいですね。

ホリスティック医学を追い求める帯津三敬病院の名物看護師だった山田幸子が、看護に身を捧げた後半生を語る。真の“いのちの看護”とは?

おびつ りょういち
1936年埼玉県川越市生まれ。東京大学医学部卒業、医学博士。東京大学医学部第三外科に入局し、その後、都立駒込病院外科医長などを経て、1982年、埼玉県川越市に帯津三敬病院を設立。そして2004年には、池袋に統合医学の拠点、帯津三敬塾クリニックを開設現在に至る。日本ホリスティック医学協会名誉会長、日本ホメオパシー医学会理事長著書も「代替療法はなぜ効くのか?」「健康問答」「ホリスティック養生訓」など多数あり。その数は100冊を超える。現在も全国で講演活動を行っている。講演スケジュールなどは、https://www.obitsusankei.or.jp/をご覧ください。

映画は死なず

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