23.04.26 update

第11回 会社を俯瞰で見る社長の立場だからこそ見えてきた攻めの姿勢

 実際に設備投資を実施したのは、岡田裕介の死後だった。設備投資の前提にあるのは、いい映画を作るということである。いい作品を作れば多くの観客に劇場に足を運んでもらえると確信している。

 たとえば、3億円で映画を作って赤字を作るよりも、俳優をはじめ、セット、シナリオなどいろんな部分でもう少し膨らませたら、もっと大きな作品になるのではないかということがある。3億円で作れる映画があったとしたら、そこに1億円なり上乗せしてもっと画の大きい映画を作ったほうがいいのじゃないかということである。主役だけでなく脇の役にも、すばらしい俳優たちを集めると、じゃあ、セットももっといいものを作ろうということになり、金はかかるが、大きな画ができあがる。そういう方向に向かいたいと思っている。 

 だから、今みんなに提案しているのは、年間2本、東撮、京撮で1本ずつテントポールとなる映画を作ったらどうだろう、作りましょうということである。もちろん、金をかけても失敗することもある。映画というものは、最初からテレビや配信などとは違う映画としての存在感を出すために、これだけの金をかけるというのではなく、いい作品を作った結果として金がかかったということである。

 本年1月に公開して、現在も公開中の東映創立70周年記念作品として製作した『レジェンド&バタフライ』は、その考えを具現化して製作した映画だと言っていいだろう。木村拓哉、綾瀬はるかをはじめとするすばらしい俳優たち、それに演出、脚本、撮影、セットなど大友啓史監督をはじめとしたスタッフたちによる魂の仕事により、映画らしいスケールの大きな作品に仕上がった。おかげさまで、400以上のスクリーンで上映され、多くの観客の方たちが劇場に足を運んでくださっている。やはり公開中の『シン・仮面ライダー』しかりである。大ヒットしている様子を見るにつけ、やはり東映は映画製作の会社だということを、いまさらながら実感している。

▲仮面ライダー生誕50周年企画作品として2023年3月に公開された『シン・仮面ライダー』。監督・脚本は、映画『シン・ゴジラ』でもメガホンを取った庵野秀明。本作は、「仮面ライダー」シリーズのリブート作品で、現代を舞台に、1971年に放送されたテレビシリーズ「仮面ライダー」や、石ノ森章太郎の原作漫画「仮面ライダー」を参照しながら、新たな物語が描かれている。仮面ライダーこと本郷猛には池松壮亮、仮面ライダー第2号の一文字隼人には柄本佑という、意表をついたキャスティング。そして緑川ルリ子には浜辺美波と、令和の映画ならではの組み合わせとなっている。その他にも、西野七瀬、本郷奏多、塚本晋也、手塚とおる、松尾スズキ、森山未來と魅力的な役者がそろった。さらに、仲村トオル、安田顕、市川実日子、竹野内豊、斎藤工、長澤まさみと豪華なキャストに松坂桃李、大森南朋は声の出演と、贅沢である。テレビのそれぞれの時代に「仮面ライダー」に夢中になったファンたちにとって、語られずにはいられない映画であろう。
©石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会

 

1 2 3

映画は死なず

新着記事

  • 2024.12.03
    きわどい熟年女性の性愛表現から母の優しさまでフラン...

    『山逢いのホテルで』見どころ

  • 2024.12.03
    東京ステーションギャラリー「生誕120年 宮脇綾子...

    応募〆切: 1月20日(月)

  • 2024.12.02
    橋幸夫・舟木一夫・西郷輝彦・三田明の青春歌謡四天王...

    松竹青春歌謡映画のヒロイン 尾崎奈々

  • 2024.12.02
    大注目のボートレーサーが集結した「2025年 BO...

    応募〆切:12月20日(金)

  • 2024.11.28
    第5回【東宝映画スタア☆パレード】酒井和歌子&内藤...

    文=高田雅彦

  • 2024.11.28
    クリスタルキングが歌唱した「大都会」の唯一無二のハ...

    クリスタルキング「大都会」

  • 2024.11.27
    第55回【萩原朔美 スマホ散歩】いまどきのカバン考...

    見事な自己表現!

  • 2024.11.25
    クリスマス・イブに手塚治虫の歴史的名作が蘇る!映画...

    応募〆切:12月15日(日)

  • 2024.11.21
    「星影のワルツ」「北国の春」という2つの大ヒット曲...

    千昌夫「夕焼け雲」

  • 2024.11.20
    能登の子どもたちや被災者を、美しい音楽で励ましてく...

    被災者に勇気を与えるウイーン・フィルの活動

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!