23.09.21 update

第5回【私を映画に連れてって!】 大ヒット映画『ニュー・シネマ・パラダイス』を紹介した映画館〈シネスイッチ銀座〉

1981年にフジテレビジョンに入社後、編成局映画部に配属され「ゴールデン洋画劇場」を担当することになった河井真也さん。そこから河井さんの映画人生が始まった。
『南極物語』での製作デスクを皮切りに、『私をスキーに連れてって』『Love Letter』『スワロウテイル』『リング』『らせん』『愛のむきだし』など多くの作品にプロデューサーとして携わり、劇場「シネスイッチ」を立ち上げ、『ニュー・シネマ・パラダイス』という大ヒット作品も誕生させた。
テレビ局社員として映画と格闘し、数々の〝夢〟と〝奇跡〟の瞬間も体験した河井さん。
この、連載は映画と人生を共にしたテレビ局社員の汗と涙、愛と夢が詰まった感動の一大青春巨編である。

▲1987年12月19日、イギリス映画『あなたがいたら/少女リンダ』の上映で開館した<シネスイッチ銀座>。全国ロードショウ枠に入らないが良質な作品を中心にプログラムを組み映画ファンや映画マニアを喜ばせていた81年開館の新宿の<シネマスクエアとうきゅう>や、娯楽映画として楽しめるアート系の映画を上映し幅広い年齢層に支持されていた85年開館の<シネセゾン渋谷>と共に、ミニシアターブームの一翼を担った。特に88年の『モーリス』や、89年の『ニュー・シネマ・パラダイス』は、そのブームに大きく貢献している。レディース・デー割引を始めた映画館としても知られている。写真はシネスイッチでの筆者。筆者はシネスイッチの立ち上げから、95年の岩井俊二監督の劇場長編映画第1作『Love Letter』まで、数々の作品に関わった。ミニシアターの小ぶりのパンフレットはとてもセンスが良かった。シネスイッチのパンフレットの表紙は、全作品ペーター佐藤氏のイラストだった。

 映画館<シネスイッチ銀座>(1987/12月スタート)の発想は意外なところからスタートした。元々、ATG (日本アート・シアター・ギルドは1961年から80年代にかけて、非商業主義的な芸術作品を製作・配給し、日本映画史に多大な影響を与えた)や日活ロマンポルノを学生時代に多く観ていたせいで、もしかすると『南極物語』(1983)や『私をスキーに連れてって』(1987)は、自分テイストではないのではと思うことがあった。
 メジャーなら『太陽を盗んだ男』(1979)のような映画をやりたかったがハードルは高い。『青春の殺人者』(1976)や『サード』(1978)、『天使のはらわた 赤い教室』(1979)サイズならローバジェットで製作出来るのでは……。

▲1971年4月2日から2003年9月27日までフジテレビ系列で放送されていた映画放送枠番組「ゴールデン洋画劇場」。タイトルからして基本的に洋画が放送されていたが、邦画を放送するときには「特別企画」と謳われていた。2001年10月からは、タイトルが「ゴールデンシアター」に変更されている。第1回の放送はジョン・ウェイン主演の『エルダー兄弟』だった。すべて日本語吹替放送で、俳優や歌手、タレントたちも吹替を担当していた。野際陽子が『エイリアン』のシガニー・ウィーバー、柴田恭兵が『マッド・マックス2』のメル・ギブソン、近藤真彦が『フットルース』のケビン・ベーコン、小松政夫が『トッツィー』のダスティン・ホフマン、織田裕二が『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のマイケル・J・フォックス、根津甚八が『アンタッチャブル』のケビン・コスナー、中尾ミエが『殺したい女』のベット・ミドラー、いかりや長介が『ポパイ』のロビン・ウィリアムズ、妻夫木聡と竹内結子の映画『春の雪』コンビは『タイタニック』のレオナルド・ディカプリオとケイト・ウィンスレットという具合だ。ただ、一度だけ、筆者が担当で、会社を口説き字幕で放送したことがあった。『フラッシュダンス』(1983)である。音楽映画で、納得できる吹替版が作れる気がしなかったのだ。特に歌を日本語吹替にすることにどうしても抵抗があった。総反対を受けた筆者は「もし視聴率が獲れなければ……」との啖呵を切る。大方の予想に反して22%の視聴率を獲得した。ただ、後が続かず、1回だけの字幕放送に終わった。写真のチラシは、『波の数だけ抱きしめて』の中山美穂と、「ゴールデン洋画劇場」で89年8月12日に放送された『スタンド・バイ・ミー』。
▲1987年にスタートしたフジテレビ系列の深夜の映画放送枠「ミッドナイト・アート・シアター」。放送開始から数年は、当時ブームでもあった〝ミニシアター系〟の作品を専門に放送していた。映画本編はノーカットで、途中でCMも入らない放送形態だった。当初は、映画本編の前後に、映画評論家や、映画に思い入れのある人たちによる解説がついていた。現在も同名の番組があるが、放送スタイルは全く違う形になっている。

 一方で、テレビ局の社員として「ゴールデン洋画劇場」では放映出来ない、僕が好きな地味目の映画を放送する方法はないか……を模索した。「ゴールデン洋画劇場」もパンフレットを制作していたが、深夜での放送で、ノーカットで、解説も付けながら映画枠を誕生させられないか……。映画好きの羽佐間重彰社長(当時の社長/大映出身)の英断で、本編放送内のCM無しの画期的な映画枠「ミッドナイト・アート・シアター」が、1987年4月にスタートした。
 自分好みの『蜘蛛女のキス』(1985)や『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1984)など、定期的にアートなパンフレットも制作して放送した。今、振り返るとCMスポンサーが無いのに、誰のためのパンフレット? と考えてしまうが……。色んな方に解説(講評)してもらうミニ番組などをつけたが、俳優の洞口依子さんの『ストレンジャー・ザン・パラダイス』は今でも記憶に残っている。地上波民放でCM無しなど、今ならあり得ないだろう。ただ、このことが<シネスイッチ>への布石となったと思う。

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