23.11.27 update

第7回【私を映画に連れてって!】 待望の大林宣彦監督との初仕事に挑んだ『水の旅人 侍KIDS』公開までのスリリングな日々、そして『タスマニア物語』のこと

 その後、編集作業で東宝成城撮影所に殆ど、泊まり込み状態。撮影は無事? 終了したが、編集作業が延々と続き、ついに完成披露試写会の前日になった。僕も結局、撮影所で夜明けを一緒に迎えることになる。
 日の出を見ながら、忘れられない監督の一言。

「河井さん、いよいよ『映画』らしくなって来ましたねえ……」

 僕は、普通に睡眠したい派だが、監督は1時間くらい(の睡眠)がちょうど良いらしい。恐ろしい監督とご一緒したものである。結局、有楽町マリオンでの夜の完成試写会(そう、すでに7月に突入していた)の当日の朝なのに完成していない。

「監督、流石にもう(編集済みを)現像所に出さないと、今夜の試写会に、間に合わないんじゃないですか?」

「大丈夫。イマジカは優秀だし、慣れてるから!」

 この言葉を信じ(騙され?)、9時過ぎまで作業は続いただろうか。現像所の完成予定は夕方になりそうで、果たして6時台のマリオン試写に間に合うのか……?
 現像所と電話連絡を取り、タクシーで運んで渋滞にハマるとまずいので、フィルムを山手線で、五反田から有楽町まで手持ちで持ってきてもらうことになった。
 フィルムは来ないのに、舞台挨拶は始まってしまう。普段は長~い監督の舞台挨拶を、こちら側は「出来るだけ短く!」と手信号を送ったこともあったが、今回は「延ばしてOK」と合図を送るしかない。そして、そこで観客席に向けて驚くべき監督の発言。

「皆さん。今夜、ご覧いただく映画は、ここでしかご覧いただけないものです。最後の仕上げの途中で……今宵限りの……」

「それって、未完成?完成試写会じゃないの?」という観客の声が、自分の心の中では拡散しつつも、現像所からプリントが届き、無事? 上映開始。プリントの一部に不具合がありつつも(当然、監督は承知の上でか)、何とか上映終了。
 監督から「さあ、東宝撮影所に戻って続きやりましょう!」と、元気な声で……。
 そこからまた数日ポスプロがあり、公開には間に合ったような。本当にちゃんと完成しているのか? それは、監督のみぞ知る状態……。とにかく全国の映画館で上映は始まった。
 並行して宣伝展開もやっていたが、中味を、内容をアピールしてという所には持って行けなかった。あまりにカット数が多く、監督も「このカット数は新記録じゃないか」と……。久石譲さんの素晴らしい音楽は今回も存在しながら、映画の内容をしっかりと伝えることができなかったことは、此方の力不足で申し訳ない気持ちだった。

▲93年公開の、時空を超えて現代の東京に流れ着いた水の精である一寸法師のように小さな老侍と、ひ弱で内気なところがある現代の少年が織り成す友情を描いた心温まるSFファンタジー『水の旅人 侍KIDS』。少年は、小さな侍から、勇気や自然のやさしさ、武士の心を学ぶが、侍は水質汚染で体を蝕まれてしまう。少年は侍を助けるために水源へと向かう……という環境問題や自然保護のテーマを盛り込んだみずみずしい作品である。全編の80パーセントがハイビジョン映像で撮影されている。老侍を演じたのは山﨑努で、原田知世、風吹ジュン、岸部一徳らも出演している。本作は筆者の待望であった、大林宣彦監督との仕事であったが、この作品に関わったことにより、筆者は映画製作について、映画プロデユーサーという仕事について考えさせられることになる。また、本作のメイキングビデオを、筆者の友人でもある舞台演出家として名を成している鴻上尚史氏が撮影している。大林監督から映画を学びたいとしてメイキングの撮影を嘆願したという。『映画の旅人 大林宣彦の世界』としてリリースされているが、メイキング監督としては、ずっと一緒に大林監督といられる、と筆者に語っていたという。

 公開スタートは、予想通り? 低調かと思いきや、夏休みに入り客足が伸び、最終的には配収20億円(興行収入だと40億円弱)を越えるヒットに。配給関係からは「パート2」も! との声も聞こえてきたが、「あり得ません!」と言うしかなかった。
 挫折感はなかったと思うが、「これじゃダメだ」とは強く感じた。同時に、自分の至らなさや未熟さを思い知った経験にもなった。プロデューサーとしての目論見、目標、そしてそこまでのプロセス……。ある意味では、スタッフ、キャストらの期待に応えられなかったこと。アメリカの「映画プロデュース講座」などを読みながら、いかに自分の、そして日本の映画製作が世界と異質であるかを考えさせられた。

 そんな時、紹介で米米CLUBのカールスモーキー石井さんと会うことになった。また、同時期に、まだ映画を撮ったことがない岩井俊二さんに会うことになり、新たな展開がスタートする。


かわい しんや
1981年慶應義塾大学法学部卒業後、フジテレビジョンに入社。『南極物語』で製作デスク。『チ・ン・ピ・ラ』などで製作補。1987年、『私をスキーに連れてって』でプロデューサーデビューし、ホイチョイムービー3部作をプロデュースする。1987年12月に邦画と洋画を交互に公開する劇場「シネスイッチ銀座」を設立する。『木村家の人びと』(1988)をスタートに7本の邦画の製作と『ニュー・シネマ・パラダイス』(1989)などの単館ヒット作を送り出す。また、自らの入院体験談を映画化した『病院へ行こう』(1990)『病は気から〜病院へ行こう2』(1992)を製作。岩井俊二監督の長編デビュー映画『Love Letter』(1995)から『スワロウテイル』(1996)などをプロデュースする。『リング』『らせん』(1998)などのメジャー作品から、カンヌ国際映画祭コンペティション監督賞を受賞したエドワード・ヤン監督の『ヤンヤン 夏の想い出』(2000)、短編プロジェクトの『Jam Films』(2002)シリーズをはじめ、数多くの映画を手がける。他に、ベルリン映画祭カリガリ賞・国際批評家連盟賞を受賞した『愛のむきだし』(2009)、ドキュメンタリー映画『SOUL RED 松田優作』(2009)、などがある。2002年より「函館港イルミナシオン映画祭シナリオ大賞」の審査員。2012年「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」長編部門審査委員長、2018年より「AIYFF アジア国際青少年映画祭」(韓国・中国・日本)の審査員、芸術監督などを務めている。

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映画は死なず

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