新たに伴淳三郎が加わった、続く第四話『恋の三毛猫』でも驚きの成城の風景が見られる。
商店街で「純喫茶」を営む浦辺粂子の娘・春恵は映画スター。春恵は「南ヶ丘撮影所」で撮影があり、これを金語楼の娘(野上千鶴子)と孝子(ひばり)が見学に行くシーンは、新東宝作品にもかかわらず東宝撮影所でロケ(!)されている。
正門を入ってすぐのところにある噴水の周りでは、藤田進、山口淑子、高峰秀子、花井蘭子らが談笑、そのほとんどが東宝争議で大河内傅次郎に付いて東宝を去った「十人の旗の会」に属する俳優である。さらには、ステージ内でエノケン(榎本健一)と〝ブギの女王〟笠置シヅ子が撮影に臨むシーンもあって、サービス満点。ついNHKの朝ドラに思いが及ぶ。
孝子がスタッフから〝美空ひばり〟と間違えられるシーンは、のちに『歌え!青春 はりきり娘』(55年:ひばり似のバスガイドが東宝撮影所で本人と会う)で再現される。魚の骨がのどに刺さり医務室で休むひばりに代わって、監督(中村哲)が孝子に役を振るのも実に愉しく、ここで孝子は「啼くな小鳩よ」「三味線ブギウギ」など四曲を披露する。ひばりはこのとき十三歳。笠置シヅ子ばりにブギウギを歌う少女として注目されていた頃である。
さらに驚くべきは、新興成金の清川虹子の豪邸がP.C.L.(東宝の前身)創設者である植村泰二邸を使って撮影されていることだ。俳優やスタッフが集うサロン的な役割を果たしていた植村邸であるから、自社作品の撮影にも使用させていたのだろう。
1954年公開の『君ゆえに』は、『愛染かつら』の野村浩将監督によるメロドラマ。安西郷子と中山昭二(のちに「ウルトラセブン」でキリヤマ隊長を演じる)による〝すれ違いメロドラマ〟だが、安西の溌溂とした魅力もあって、カラッとした明るさのある佳篇となっている。
野村にとって、成城の駅前が見られる『結婚三銃士』、成城学園内でロケした『若き日のあやまち』に次ぐ〝成城ロケ映画〟となる本作では、デザイナーになろうと札幌から上京した安西が、タクシー会社を営む叔父(鳥羽陽之助)と自動車の運転を練習するシーンで、またもや成城の風景が登場する。安西が車を走らせるのはまさに『続向う三軒両隣り』でひばりが歌った通りで、いかに新東宝がロケ地として成城の街を重宝していたかが思い知らされる。