さらなる〝成城ロケ〟新東宝映画『男が血を見た時』(三輪彰監督)は60年4月の公開作。命運尽きた新東宝は翌61年8月に倒産するので、ほぼ最末期の作品にあたる。これは「東京ブラックジャガー」なるオートバイクラブ、いわゆる〝カミナリ族〟を描いた映画だが、主人公が「弱きを助け強きを挫く」善意のカミナリ族というのがなんとも新東宝らしくない。
成城の風景は、新入りのジョージ(松原緑郎)が、やはり新メンバーの京子(三ツ矢歌子)をバイクで自宅に送り届けるシーンで目に飛び込んでくる。ブルジョワ娘の京子であるから、その自宅は新東宝撮影所からも程近い住宅地・成城に設定されていて、見ればその豪邸は、かの龍野邸で撮影されている。
自宅に着く前、バイクは成城「桜並木」通りを疾走するが、これは『日本一のホラ吹き男』(64年)で、植木等が満開の桜の下、歌い歩くシーンが撮られた四年前のこととなる。
五所平之助、内田吐夢、石井輝男の助監督を務め、『スーパージャイアンツ 宇宙怪人出現』(58年)で監督デビューした三輪彰は、『胎動期 私たちは天使じゃない』(61年)や本作などで成城の風景をフィルムに刻印。新東宝在籍時は、撮影所傍の砧五丁目に住んだ。
新東宝には『狂熱の果て』(61年/監督:山際永三)という〝太陽族〟が主人公となる映画がある。会社倒産後、大宝映画として公開された本作では、成城大学の構内や旧中村邸など成城の風景がふんだんに見られるが、この度上映された太陽族もの『太陽と血と砂』(60年/小野田嘉幹監督)でも、同じく中村邸前の通りが重要な舞台となっている。
主人公の少年(松原緑郎)は、姉(池内淳子)を暴行し自殺に追い込んだ太陽族の大学生を探し回る。そして、‶新東宝定番ロケ地〟の中村邸前で姉の元婚約者と再会したことで、これが彼らの発見、すなわち復讐の実行へと繋がっていく。新東宝映画は、やはり犯罪や復讐といったテーマがお似合いである。
「少年ジェット」でブラックデビルとの対決が行われて以来、東宝の『ニッポン無責任時代』(ハナ肇の社長邸となる)や日活の『逢いたくて逢いたくて』(園まりがお手伝いさんを務める)で撮影現場となった中村邸。新東宝では他にも『地下帝国の死刑室』(60年/成城居住の並木鏡太郎監督)で某国スパイ組織の秘密基地となるなど、様々な使い方をされてきたのは、それなりに見栄えのする豪邸だったからに他ならない。