24.05.02 update

第12回 【私を映画に連れてって!】〝私をカンヌに連れてって〟くれたエドワード・ヤン監督『ヤンヤン 夏の想い出』で監督賞受賞

 肝心の岩井俊二監督作品は誕生しなかったが、『ヤンヤン 夏の想い出』の日本での公開時に、劇場予告編などは彼が創ってくれた。その時、彼が言ってくれた「河井さん、このエドワード・ヤン監督の映画が生まれたことは凄いことですよ」を聞いたとき、一瞬「君の新作は……」と心の中で呟いたが、笑顔で返したと思う。

 その年のアメリカの全米映画批評家協会賞で、全世界の作品から最優秀の「作品賞」に選出された。通常はこのままアカデミー賞の本命である。ただ、作品賞のノミネート条件はLAやNYで一定の商業上映を12月末までに行われていなければいけなかった。これは断念。そこで外国語映画賞狙いで慌てて渋谷で12月に上映を行った。しかし、アカデミー賞協会のこの映画の国籍は台湾に認定されていた(と思う)。台湾での公開は監督本人が(当時)望まなかったので見送っていた。ということでアカデミー賞からはノミネート段階で漏れてしまった。ルールを知らない僕のミスでもある。製作資金は日本、プロデューサーも日本だったが、やはりエドワード・ヤン監督の映画は台湾映画であるとのジャッジであろう。映画の国籍はますます判定が難しくなって来ている。

『ヤンヤン 夏の想い出』の後は、アメリカから誘われ、監督はLAに住んで、新作を開発していた。熱狂的な手塚治虫フリークでもある彼は初のアニメに挑んでいた。ところが2007年6月29日、LAの自宅で亡くなってしまう。まだ59歳だった。アメリカから戻ったら、最初の企画「シザース」は是非、やりたかった。今での彼の書いたシノプシスは僕の手元に残されたままだ。

 エドワード・ヤンは亡くなってしまったが、『ヤンヤン 夏の想い出』は生き続けている。

 英国映画協会史上最高の映画100(2022)にも選ばれた。

 BBC(世界中の映画評論家)が選ぶ21世紀最高の映画ベスト100ランキング(2016)では8位。日本映画は『千と千尋の神隠し』が唯一4位に選ばれている。2000年のカンヌ映画祭で一緒だったウォン・カーウァイ監督の『花様年華』が2位。僕もこの映画は大好きだが、最初、プロジェクトで一緒にやろうとしていた監督でもある。

 釜山国際映画祭が選ぶ史上最高のアジア映画トップ100(2015)では12位。1位はもちろん小津安二郎監督『東京物語』だ。ベスト10には『羅生門』『七人の侍』『悲情城市』『クーリンチェ少年殺人事件』など傑作が並ぶ。

 他にも色々あるが、極めつけはアメリカ「ハリウッド・リポータ―」の批評家が選ぶ21世紀のベスト50(2022)。この雑誌は好きでよく読んでいた。ついに1位に選出されている。6位に『千と千尋の神隠し』、7位に『ブロークバック・マウンテン』、8位に『花様年華』、12位にアカデミー賞作品賞の『ムーンライト』、18位にカンヌ国際映画祭パルムドール『万引き家族』、21位に『パラサイト 半地下の家族』などが入っている。

 エドワード! おめでとう! あなたの創った映画は永遠に愛され続けます。

▲2000年の5月10日から21日まで開催されたカンヌ国際映画祭でレッド・カーペットを歩く『ヤンヤン 夏の想い出』のチームたち。中央がエドワード・ヤン監督。筆者(左端)にとっては、カンヌ初参戦にして監督賞の受賞をもたらしたすばらしい体験だった。映画祭で配られるプレスにも筆者の名前が記されている(写真では左から3番目)。この年のカンヌのコンペティション部門には、日本から出品の大島渚『御法度』、青山真治『EUREKA ユリイカ』をはじめ、ウォン・カーウァイ『花様年華』、ジョエル・コーエン『オー・ブラザー!』、ジェームズ・アイボリー『金色の嘘』、リブ・ウルマン『不実の愛、かくも燃え』、ラース・フォン・トリアー『ダンサー・イン・ザ・ダーク』などなど多彩な才能の作品が並んだ。コンペティション部門の審査委員長は『グラン・ブルー』『ニキータ』『レオン』『フィフス・エレメント』のリュック・ベッソンが務めている。ちなみに女優賞に輝いたのは『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のビョークだった。

かわい しんや
1981年慶應義塾大学法学部卒業後、フジテレビジョンに入社。『南極物語』で製作デスク。『チ・ン・ピ・ラ』などで製作補。1987年、『私をスキーに連れてって』でプロデューサーデビューし、ホイチョイムービー3部作をプロデュースする。1987年12月に邦画と洋画を交互に公開する劇場「シネスイッチ銀座」を設立する。『木村家の人びと』(1988)をスタートに7本の邦画の製作と『ニュー・シネマ・パラダイス』(1989)などの単館ヒット作を送り出す。また、自らの入院体験談を映画化した『病院へ行こう』(1990)『病は気から〜病院へ行こう2』(1992)を製作。岩井俊二監督の長編デビュー映画『Love Letter』(1995)から『スワロウテイル』(1996)などをプロデュースする。『リング』『らせん』(1998)などのメジャー作品から、カンヌ国際映画祭コンペティション監督賞を受賞したエドワード・ヤン監督の『ヤンヤン 夏の想い出』(2000)、短編プロジェクトの『Jam Films』(2002)シリーズをはじめ、数多くの映画を手がける。他に、ベルリン映画祭カリガリ賞・国際批評家連盟賞を受賞した『愛のむきだし』(2009)、ドキュメンタリー映画『SOUL RED 松田優作』(2009)、などがある。2002年より「函館港イルミナシオン映画祭シナリオ大賞」の審査員。2012年「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」長編部門審査委員長、2018年より「AIYFF アジア国際青少年映画祭」(韓国・中国・日本)の審査員、芸術監督などを務めている。また、武蔵野美術大学造形構想学部映像学科で客員教授を務めている。

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