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日韓合作によりヒーローの知られざる実像を炙り出した映画『力道山』

『力道山』の製作で、予想外のことは主役のキャスティングだった。誰が力道山をやるのか。出来ればプロレスシーンも吹替でなく。チャ・スンジェから出た名前はソル・ギョングだった。当時のスーパースター俳優、ソン・ガンホ、チェ・ミンシュクと並び3大役者の一人。釜山映画祭の野外上映で観た『ペパーミント・キャンディー』(2000/イ・チャンドン監督)は素晴しい映画だった。同じ監督の『オアシス』(2002)もソル・ギョング主演で良い演技だったが、役の上とは言え、60キロ代の体重に思えた。

僕が初対面の時に「90キロ位が理想で……」と言ったら「そうします(撮影時は実際に25キロ増量してきた)。プロレスも吹替なしでやります! 日本語勉強します」と。これが韓国の「映画俳優! だ」と、その場で決定した。

 ただ、力道山以外のキャストはほとんど日本人だ。後見人(タニマチ)の役は藤竜也さんにお願いした。格闘家の船木誠勝さん、プロレスラーの橋本真也さん(残念ながら映画完成前に急死された)、武藤敬司さん、秋山準さんらホンモノの方にも参加してもらった。

 ヒロイン(妻)は日本の女優にしたかった。日本での公開の事もある。ちょうど、秋の釜山国際映画祭の時期で、『リング』『らせん』でも一緒だった中谷美紀さんが、韓国映画にとても興味があり、韓国に行ってみたい! とのことで一緒に参加することになった。彼女は初めての韓国だ。僕は20数回目だろうか。チャ・スンジェとソル・ギョングが気をきかして焼肉屋を、夕飯にセットしてくれた。そこにはなんとソン・ガンホとチェ・ミンシュクも。僕はアンニョンハセヨとしか言えない中、初韓国のはずの中谷さんは、いきなり通訳無しで俳優たちと会話を始めた。おそるべし女優。僕とは向き合い方、パッションが違う! そんなこんなで、ヒロインは中谷美紀さんに決定。

▲撮影前に中谷美紀のエスコートで、新橋の花柳界へ韓国チームを招待し、「東をどり」など、日本の伝統芸を満喫した。前列に力道山役のソル・ギョングと中谷美紀。右端が筆者。

 スタッフは韓国人50人以上、日本も同様。100人を軽く超えるスタッフだが、同じ顔をしているのに、言葉が通じない。ここは合作の時の悩みの種である。相当数の通訳に助けられる。撮影のやり方も韓国と日本は随分違う。日本が今では特殊かもしれないが、監督が韓国人なので韓国スタイルに出来るだけ合わせたいがこれもギクシャクあり。また、ロケ・撮影等においては日本は発展途上国、或いは後進国か……。結局、新橋駅前の街頭テレビのプロレス中継シーン等もソウルで撮影することになった。桜のシーンだけはGWに青森弘前公園で撮影できた。ギリギリだった。

『殺人の追憶』のスタッフらも参加し、撮影監督は同じで、『殺人の追憶』の撮影は1年以上かかったという。今回はそんなことはあるはずはないと考えていたが、2004年4月にクランクインして、9月にやっと撮影終了となった。半年かかった。12月15日、力道山の命日に韓国では公開になった。

▲筆者は、映画『力道山』の製作にあたり、力道山の次男で、プロレスラーで、当時プロレスリング・ノアの副社長でもあった百田光雄氏に話を訊くために、江東区のノアの道場には何度も通った。もちろん、プロレスの試合も幾度となく観戦した。当時、ノアの社長で、2009年に試合中にバックドロップを受け意識不明、心肺停止状態に陥り46歳で亡くなった三沢光晴選手(右の写真)や、ノア所属のレスラー、小橋建太選手(左の写真)とも懇意になった。
▲餅つきにも参加し、百田光雄氏と一緒に餅をついたことも。ノア所属のレスラー、杉浦貴選手(左)、モハメド ヨネ選手(右)の姿も見える。

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映画は死なず

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