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日韓合作によりヒーローの知られざる実像を炙り出した映画『力道山』

 一方で、日本側のファイナンスや、製作体制は二転三転した。当初、僕が所属していたアミューズや、キー局などが参加予定だったが、予期せぬ出来事も続々と起き、すべて失くしてしまった。それだけ<力道山>の映像化(映画化)を行うことはタブー視されてきたことを実感として受け止めるしかなかった。それでも個人プロデューサーとしてやらせてくれたアミューズには感謝している。

 百田さんの許諾と共に、映画に登場する、例えば力道山を赤坂で刺した男、力士時代の周囲の方々等、多くの関係者に事前の了解や伝達をしておくことは重要だった。百田光雄さんが役員のノア(プロレス団体)には本当にお世話になった。またアントニオ猪木さんはじめ、プロレスラー力道山周りの方々にも協力してもらった。それでも上映直前には映画館側から〝危険〟を感じるというシアター報告もあり、大きく上映チェーンは変更になってしまった。

 結局、日本の出資はゼロ、すべて韓国サイドで、主にCJエンターテインメント(この後に『パラサイト/半地下の家族』等を製作・配給)が担当してくれた。感謝。日本はソニー・ピクチャーズが、撮影開始前にMG(ミニマム・ギャランティ)で日本のオールライツを事前購入(配給権など)してくれた。これも担当者に感謝。

韓国は目標の500万人動員には届かず300万人程度の観客数だったが、日本でも興行チェーンも変更を余儀なくされ、思った興行には至らなかった。

 それでも、東京国際映画祭のクロージング作品に選んでもらい、Bunkamuraオーチャードホール(当時は渋谷開催)に監督、キャストらで舞台挨拶が出来たことは、日韓合作映画としてはとても良かったと思う。

『力道山』は、あくまでもフィクション映画だ。それでも実際に生きていたスーパースターの物語だ。今でも、力道山が39歳(実際は41歳か)で亡くなった死因は謎の部分もある。

『シュリ』(1999)や『JSA』(2000)で過去の闇を見事に浮き彫りにしながら、エンタテインメント映画として成立させた韓国映画界。最近のアメリカなら『オッペンハイマー』(2023)か。

 僕も含めてだが、この分野での日本映画の奮起を願うところである。

▲韓国でのクランクアップの時の集合写真。中央に中谷美紀、ソン・ヘソン監督、浴衣姿のソル・ギョング、藤竜也。向かって左2番目に筆者の顔も見える。
▲韓国での完成披露試写会には、百田光雄氏(左)と息子の百田力氏(右)も訪れた。光雄氏は1970年にプロレスラーとしてデビュー戦を飾った。大病を患ったりしたが、医師からも現役続行のお墨付きを得て、〝生涯現役〟を誓い、現在もトレーニングを続けているという。光雄氏の息子百田力氏は、後にプロレスラーになり、〝力道山三世〟と呼ばれた。

かわい しんや
1981年慶應義塾大学法学部卒業後、フジテレビジョンに入社。『南極物語』で製作デスク。『チ・ン・ピ・ラ』などで製作補。1987年、『私をスキーに連れてって』でプロデューサーデビューし、ホイチョイムービー3部作をプロデュースする。1987年12月に邦画と洋画を交互に公開する劇場「シネスイッチ銀座」を設立する。『木村家の人びと』(1988)をスタートに7本の邦画の製作と『ニュー・シネマ・パラダイス』(1989)などの単館ヒット作を送り出す。また、自らの入院体験談を映画化した『病院へ行こう』(1990)『病は気から〜病院へ行こう2』(1992)を製作。岩井俊二監督の長編デビュー映画『Love Letter』(1995)から『スワロウテイル』(1996)などをプロデュースする。『リング』『らせん』(1998)などのメジャー作品から、カンヌ国際映画祭コンペティション監督賞を受賞したエドワード・ヤン監督の『ヤンヤン 夏の想い出』(2000)、短編プロジェクトの『Jam Films』(2002)シリーズをはじめ、数多くの映画を手がける。他に、ベルリン映画祭カリガリ賞・国際批評家連盟賞を受賞した『愛のむきだし』(2009)、ドキュメンタリー映画『SOUL RED 松田優作』(2009)、などがある。2002年より「函館港イルミナシオン映画祭シナリオ大賞」の審査員。2012年「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」長編部門審査委員長、2018年より「AIYFF アジア国際青少年映画祭」(韓国・中国・日本)の審査員、芸術監督などを務めている。また、武蔵野美術大学造形構想学部映像学科で客員教授を務めている。

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映画は死なず

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