キャストの中で、監督が最初からこだわっていたのが満島ひかりさんだった。僕は、よく知らなかった。事務所のマネージャーと会った時、何冊か水着の写真集などを渡され、10代では<Folder(フォルダー)5>でアイドルだったと。<フィンガー5>世代の我らには沖縄出身だけは認識できた。本人と初めて会った時「アイドル崩れ……ですがこの映画で女優として勝負かけたい!」旨を言われ、凄い迫力を感じた。
行動も伴い、撮影前には、渋谷区内の小学校の夜の体育館を借り、日々、アクション指導を受けていた。一度、覗いた時も、マットや跳び箱のあるところで、汗だくの彼女がいて、感動すら覚えた。
もう一人は安藤サクラさんだ。昔、一緒に『新宿鮫』(1993)で仕事をした奥田瑛二さんの娘さん程度の認識だった。僕としては珍しく、撮影現場に顔を出した。「長さ」のことが気掛かり……というのが一番の理由だが、いつも安藤さんがいて、こんなに出番があったかな? と思うほどだった。奥田さんも気になったのか、撮影現場にいらして、久々にお話しした。その日は、彼女は血みどろのシーンだったが。
<AAA(トリプル・エー)>の西島隆弘さんはプロデューサー側のキャスティングだが、見事にはまった気がする。
西島隆弘、満島ひかり、安藤サクラの若手陣と、渡部篤郎、渡辺真起子らのベテラン俳優が上手く絡み、とても良いキャストの組み合わせになった。
一方で、長さに関する懸念は払しょくできないままだった。昔、大林宣彦監督と『水の旅人 侍KIDS』(1993)を製作した際、「1時間半が理想です!」と話した時に「僕は、普通の2倍、シナリオが2ページで1分ですから200ページでも1時間30分台で撮れますね」という大林監督のフレーズが蘇り、300ページなら2時間半で可能か、と独り言を言ってみたり……。
ラッシュ(撮影部分試写)は、すこぶる面白く、僕の予想を超える出来だった。シナリオに無いシーンも加わったような気もしたが……。
撮影が終わり、編集マンのスタジオで全体ラッシュ。監督はこのバージョンで行きたい、と事前に聞いていた。ラッシュなので音付けも無い状態なのに、圧倒される展開の速さ。飽きさせないストーリーの中で俳優たちが躍動する。傑作かも。
「これ、ちょっと長めだけど、どれくらいの尺」
「5時間ちょうど位です!」
まず、カンヌ映画祭が脳裏を駆け抜け、次に上映予定の劇場、ユーロスペースの支配人の顔が浮かぶ。「1日2回上映も厳しいのでは……。途中休憩あり??」そんな長い映画は作ったことがない。
即刻、「面白いけど、2時間半程度で約束したよね……」
「わかりました。2時間半バージョンで編集し直します」と、監督がやけに素直に。
アメリカでは編集権はプロデューサーにあるが、日本は監督との〝協議〟がほとんどだ。『スワロウテイル』の時は、僕が配給会社との契約で「2時間15分程度」と契約を交わしていた。監督最終バージョンはほぼ3時間だった。とても面白かった。しかし「2時間15分程度」ではない。やはり2時間30分を切らねば、と決断し、2時間29分の完成版となった。カットしたシーンには僕が好きなシーンもあったが、そこは堪えて……。
『愛のむきだし』のカットはそのレベルではない。半分の尺だ。その後、編集し直した2時間半バージョンを観せられ、最終決断を迫られる。これではダイジェスト版だ。面白さ半減、というか面白くない。まさか2部作にも出来ない。カンヌは厳しいだろうが、日本の公開は1日2回以上上映しなくては……。
「4時間を切ろう! 3時間何分ということで。以上!」
中味には殆ど言及しなかった。出来なかった。撮影が終わった時から「5時間」は監督の頭の中にあったのだ。2時間半バージョンは、「ダメ」のリアクション想定なのである。勝ち負けではないが、ちょっと負けた気分になった。
「完成尺3時間57分」。3時間台の映画です! というには無理があり、「4時間」の映画になった。