『めぐりあい』の半年後に公開された『兄貴の恋人』監督:森谷司郎)で、酒井と内藤の二人は本格的な共演を果たす。この作品は、内藤が加山雄三の妹役であったのに対し、酒井はその恋人役を演じるという、二人のポジション=立場の違いがよく分かる作品となっている。 以降も、女を武器にしたようなキャラが回ってくることはなかった内藤。『華麗なる闘い』(69/これも浅野正雄監督)では、ちょっとだけ大胆なシャワー・シーン(ベッドシーンは吹き替え)にも挑戦しているが、これが大きな話題になるということはなく、何となく見過ごしてしまった方も多いだろう。
このあと内藤は、ザ・ランチャーズの喜多嶋修との結婚=渡米を期に女優業をきっぱりと引退。これで内藤は〈伝説の女優〉の地位を得たわけだから、その決断は間違っていなかったことになる。
一方、若大将シリーズで新ヒロイン・節子に扮した酒井は、『妻よ薔薇のやうに』のリメイク『恋にめざめる頃』(69)や森谷監督作『二人の恋人』(同)などで難しい役柄に挑んだり、曽野綾子のエッセイをもとにした『誰のために愛するか』(71:ささやかだがベッド・シーンもあった)で大人の女性の愛の苦悩を表現したりもするが、瀕死(?)の「東宝青春映画」で新境地を開くことは至難の業。
特筆すべきは、観客を挑発するかのような大胆なヒロイン(強姦未遂シーンまである)に扮した『俺たちの荒野』(監督:出目昌伸)くらいのもので、小林正樹監督『日本の青春』(68)で演じた黒沢の相手役も新味はゼロ。映画女優の道を続けるのはあまりにも前途多難だったか、ここでワコちゃんが選んだ道はテレビドラマへのシフトであった(※3)。
ところで、二人に共通するウィークポイントと言えば、何といっても〝歌〟である。映画で酒井の歌声を聞くことなど『グアム島珍道中』の主題歌(73/井上順とのデュエット)以外になく、レコードも数枚のリリースにとどまる。歌唱力の優劣はともかく「白馬のルンナ」(※4)という大ヒット曲を持つ内藤に、酒井は歌の面でも結局勝てずじまいに終わる。
いずれにせよ酒井和歌子と内藤洋子の時代は短く、また、それがゆえに圧倒的に輝いた二人。この両輪の花は、まこと「最後の東宝プリンセス」と呼ぶに相応しい存在であった。
あなたはいったい、どちら派だったろうか?
※1 この当時、高峰秀子は東宝専属ではなかったが、木下惠介作品の他は東宝映画を中心に出演していた。
※2 この図式は、山口百恵が主役を演じた『伊豆の踊子』(74)における、百恵と石川さゆりの役柄の格差に通じる。
※3 残念ながら酒井は、テレビでは映画ほどの実績を残せておらず、「氷点」に出た内藤のほうが伝説的存在となる。
※4 舟木一夫との共演作『その人は昔』(67)で披露。舟木と内藤のコンビは、いかにメルヘン風な作りであっても、大きな違和感を覚えたものだ。
高田 雅彦(たかだ まさひこ)
1955年1月、山形市生まれ。生家が東宝映画封切館の株主だったことから、幼少時より東宝作品に親しむ。黒澤映画、クレージー映画、特撮作品には特に熱中。三船敏郎と植木等、ゴジラが三大アイドルとなる。東宝撮影所が近いという理由で選んだ成城大卒業後は、成城学園に勤務。ライフワークとして、東宝を中心とした日本映画研究を続ける。現在は、成城近辺の「ロケ地巡りツアー」講師や映画講座、映画文筆を中心に活動、クレージー・ソングの再現に注力するバンドマンでもある。著書に『成城映画散歩』(白桃書房)、『三船敏郎、この10本』(同)、『七人の侍 ロケ地の謎を探る』(アルファベータブックス)、近著として『今だから! 植木等』(同2022年1月刊)がある。