21.10.28 update

第8回 東宝と成城商店街のディープな関係  

1932年、東宝の前身であるP.C.L.(写真化学研究所)が
成城に撮影用の大ステージを建設し、東宝撮影所、砧撮影所などと呼ばれた。
以来、成城の地には映画監督や、スター俳優たちが居を構えるようになり、
昭和の成城の街はさしずめ日本のビバリーヒルズといった様相を呈していた。
街を歩けば、三船敏郎がゴムぞうりで散歩していたり、
自転車に乗った司葉子に遭遇するのも日常のスケッチだった。
成城に住んだキラ星のごとき映画人たちのとっておきのエピソード、
成城のあの場所、この場所で撮影された映画の数々をご紹介しながら
あの輝きにあふれた昭和の銀幕散歩へと出かけるとしましょう。


成城シネマトリビア─語り継ぐ映画村─

文:高田 雅彦

 前回は、成城の商店街が東宝やその他の映画会社の作品において、いかにオープン・セットの役割を果たしたかについて述べさせていただいた。京都にも撮影所が集中した時期があったが、こちらは時代劇が中心であったため、街の風景、ましてや商店街が写る映画などは稀であった。してみると、このような街は日本国中探してもここ成城だけであり、筆者が当地を‶日本のハリウッド〟と呼びたくなる気持ちも、よくお分かりいただけるものと思う。

 さて、その成城駅前商店街の一店「成城凮月堂」は、大正7年(1918)の創業。昭和5年(1930)に現在の場所(成城駅北口)に店を移したというから、P.C.L.(のちの東宝)がやってくる前から、この地で菓子作りに勤しんでいたことになる。当菓子店の店先では多くの映画が撮影されているので、ここで何本かご紹介させていただきたい。


昭和15年(1940)の、成城小学校児童による「皇紀2600年祝賀」日の丸行列。バックには成城凮月堂の店頭が見える 写真提供:成城学園教育研究所

現在の成城北口駅前。80年以上経っても、ニイナ薬局と凮月堂は変わらず営業中(筆者撮影)

 一本目は、小林桂樹が‶御用聞き〟に扮した、その名もずばり『御用聞き物語』(正続篇/57年:丸林久信監督)という東宝映画。昭和30年代、駅前以外に商店がほとんどなかった成城のようなお屋敷街においては、御用聞きという職業は必要欠くべからざる存在であったようで、P.C.L.社長・植村泰二のお嬢さん、泰子さんらが書き残した書物(註1)には、「当時は、日用品はなんでも御用聞きと電話で間に合わせる暮らし」と記されている。当凮月堂でも、店員が毎日お菓子の見本を家々に持参しては、注文によって配達を行っていたという。

 実際、江利チエミ主演の『サザエさん』シリーズ(56~61年:青柳信雄監督)では、脱線トリオの由利徹、南利明、八波むと志にダークダックスなどの面々が、成城や桜丘(にある設定)の磯野家に御用聞きに訪れるシーンがしばしば見られる。

 大学生で「三河屋酒店」の御用聞きを務める小林桂樹は、もちろん学生服姿。現在の大学生でこんな格好をしている者は皆無だが、当時はこれが当たり前。『若大将』シリーズの田沼雄一(加山雄三)も当然ながら、学生服での通学であった。

 本作は、やはりクリーニング店の御用聞きに扮する中村メイコ(註2)との交流を軸に物語が進行。「成城凮月堂」や「ニイナ薬局」、「きぬた屋」(蕎麦屋)、「アート商会」(クリーニング屋)の店先のほか、街角に掲げられた「木下病院」などの看板も見られることから、成城の街のあちこちでロケが行われたことが分かる。


(左)昭和33(1958)年の成城凮月堂店頭 写真提供:堀芳郎氏 (右)「成城凮月堂」前ですれ違う小林桂樹ら御用聞きたち イラスト:岡本和泉

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映画は死なず

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