実写映画部門は苦戦していたかもしれないが、私が社長になってやらなければいけないことが何もなかったくらいに、東映は絶好調だった。
社長時代に記憶に残る好きな映画に2018年公開の『孤狼の血』がある。もともと日活から持ち込まれた企画で、日活の社長の佐藤氏が北海道函館出身で、白石和彌監督も旭川出身、そして私が札幌出身と北海道が揃った。それ以前、北海道警の稲葉圭昭の『恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白』を原作とした映画企画が持ち込まれた。2016年公開の映画『日本で一番悪い奴ら』である。それを監督したのが白石和彌で、いつかまた白石監督と一緒にやりたいなという思いがあった。宣伝部でもこれ面白いですよという声も出ていて、柚月裕子の小説を読んでみたら面白いし、企画が進んだ。宣伝方法としては、東映は刑事モノとしてはテレビでも「相棒」などの刑事モノを数多く作っていたので、テレビで描けない刑事モノ、つまり〝不良性感度〟の警察映画でセールスするということになった。
そうして、プロデユーサーが岡田裕介会長にプレゼンテーションにいったところ、『仁義なき戦い』の焼き直し映画みたいな方向でのプレゼンだったらしく、ヤクザ映画が嫌いだった岡田裕介は、そのプロデューサーに対して会社を辞めろ、辞めて映画を作れ、それで終わった頃にまた呼び戻すからと言ったという。それで私のところにプロデューサーが来て、この企画はボツになりましたと。どんなプレゼンテーションしたのかと訊ねると、前述の通りで、「警察映画で売れと言ったじゃないか」とたしなめた。そこで、私が岡田会長を説得するから企画を進めろという経緯があった。出来上がりを観た岡田裕介は、すごい映画だ、よくやったと絶賛した。テレビで警察映画を東映がたくさん作っていることはみんな知っている。ただ、『孤狼の血』はテレビでは決して描けない。だから、テレビでは描けない警察映画をやったらどうですか、というところで岡田裕介も首を縦に振ったという次第だった。確かに、マスコミなども『仁義なき戦い』を引き合いに出していて、みんながその方向に引っ張られていた。その意味では宣伝の意図がうまく伝わっていなかったと言えるだろう。