21.12.22 update

第5回 続・セールス四方山話 風雲篇

 若かったなあということで、思い出す苦い経験がある。1984年宮崎駿原作・脚本・監督『風の谷のナウシカ』を配給するときである。同時期の他社作品に『おしん』のアニメ版があった。そしてもう一作がジャッキー・チェンの『プロジェクトA』だったと記憶する。その年の3月公開にその3本が並んだ。

 函館の映画館で、ずっと洋画のポルノ映画を専門に上映してきた映画館だったのを、ポルノ映画以外の東映洋画の作品やアニメ映画を提供して、なんとかポルノ映画館から、一般の映画館へのイメージチェンジを図るべく、数字も上がらないのにがんばったことがあった。そこまで心をかけてきた映画館だったので、当然のことながら、そのときも東映配給の『風の谷のナウシカ』を上映してくれると思っていた。ところが、その映画館では、他社の作品の上映がすでに決まっていた。『キャノンボール』のような数字のとれる映画の配給で実績があったその会社に、東映から乗り換えがあったのだ。別の函館の映画館に持っていったら『おしん』が上映予定になっていた。交渉してみると、『おしん』をはずして『風の谷のナウシカ』を上映してあげるから、見返りとして原田知世主演の『愛情物語』をくれと言う。それはできないということで交渉決裂。今では信じられないことだが、あのジブリ作品の『風の谷のナウシカ』が3月の上映ができなかった。

 かなり憤慨して社に戻り稟議書を書いた。何かというと、函館東映を2分割するという提案。本社が了承してくれ、千人くらい入る映画館の1階席と2階席を区切って東映1,2の2つのスクリーンにした。1億数千万円かけて映画館を改造したのだ。『風の谷のナウシカ』を上映できない悔しさだけで行動した。いろんなことを考えたなと今振り返っても思う。やはり若さゆえの行動力である。

『山口組三代目』シリーズの続編として製作されたのが1974年公開の『三代目襲名』で、前作に引き続き高倉健が主役を演じている。同時期の公開作品には東宝『ノストラダムスの大予言』、松竹『男はつらいよ 寅次郎恋やつれ』があり、それぞれが大ヒットとなった。『三代目襲名』は74年邦画配給収入ランキング第5位だった。安藤昇、渡瀬恒彦、篠ヒロコ、田中邦衛らが共演者に名を連ねる。また、74年には『山口組外伝 九州進攻作戦』が製作されるが、こちらは山口組の急先鋒であった伝説の男〝一匹狼の鉄砲玉〟夜桜銀次を主役に据えた映画で、主演は菅原文太だった。渡瀬恒彦、丹波哲郎、松方弘樹、梅宮辰夫、津川雅彦、佐藤慶、志村喬ら役者がそろった。併映の空手ブームに乗った千葉真一主演『殺人拳2』の後押しもあって、やはり大ヒットとなった。©東映

 さらには、こんなこともあった。東映製作の一押しの映画があって、別途洋画作品もある、なおかつもう1本上映予定作品がある。映画館は2館しかないのに作品のオファーは3本ある。さて、どうしたものか。窮すれば通ずというのか、ある時、アイデアが生まれてくる。

  函館東映の裏に、邦画のポルノ映画の専門館があった。まあ、売上の見当はつく。そこで、館主に、一か月間小屋(映画館)を貸してくれと交渉する。一か月間映画館を借り切るのだ。その間の先方の収入を保証すればいいわけで、勝算はあった。ポルノ映画というのは、作品価格がすごく安い。1本の購入額は1万とか1万5千円程度である。その映画館で一か月300万くらいの興行収入があったとして、そこから映画の購入金額を差し引くと先方の一か月の収益は250万くらい、との算段がつく。つまり、250万円で3本目の映画を上映するためのサブの映画館として一か月借りればいいというわけである。映画館には安定的に収入が入るわけで、断る理由はない。そうすると、いいよ、ということになる。物販に関しても、売店は直営でやっていいからとも言う。売店収入はけっこう大きい。ということで、3本の上映が実現できることになる。3本のうち、いずれかの作品は当たる。当たる作品を東映の直営館で上映して、3本のうち一番当たらないのをそのポルノ館で上映すればいい。この映画を上映したら1千万くらいの興行収入が見込めるというのがあるわけで、興行収入の50パーセントで映画料金を払ったとする。そうすると、500万は手元に残る。一か月間250万で小屋を借りても250万の利益となるわけである。要するにトントンでいいのだ。実は当時東映の本筋の看板映画は一番当たらないと思っていた。でも、上映しないわけにはいかない、だから別の小屋に持っていく。もし、東映の看板映画が大当たりすればひっくり返せばいいだけである。昭和60年代前半頃だっただろうか。東映の映画が当たらない時代もあったというわけである。

 苦労も多い大変な仕事だったが、今にして思えば、その苦労さえも楽しんでいたような気がする。映画が好きだったからとも言えなくないが、むしろ、映画業界が好きだった、肌に合っていたというほうが正しいかもしれない。さて、次回は角川映画の時代、そして『宇宙戦艦ヤマト』の登場である。

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映画は死なず

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