23.02.02 update

沖縄の悲しい伝説を歌った小柳ルミ子の「星の砂」は、作詞・関口宏、作曲・出門英の異色コンビが生んだヒット曲

 1972年の「日本歌謡大賞」の大賞は、「瀬戸の花嫁」を歌った小柳ルミ子だった。司会者の前田武彦、吉永小百合から大賞が発表されると、会場の新宿コマ劇場に来ていた母親が舞台に上がり二人は抱き合い、受賞曲を歌う娘の傍らで、白いハンカチで涙をぬぐう姿が映し出された。作詞の山上路夫、作曲の平尾昌晃、編曲の森岡賢一郎が駆けつけると感極まり、必死でこらえていたが涙が止まらず、平尾昌晃が替わって歌った。一緒にテレビを観ていた父と母も、その姿にもらい泣きしていたことを思い出す。

 前年には、「私の城下町」で日本レコード大賞最優秀新人賞を受賞していた。司会の高橋圭三が「足の悪いお母さんと一緒に住むことだけがルミ子さんの願いです」という紹介に、小柳ルミ子の目はうるんでいた。その年の新人賞のノミネートは、「17歳」を歌った南沙織、「燃える恋人」の本郷直樹、「雨の御堂筋」の欧陽菲菲、「恋人もいないのに」のシモンズだった。高橋圭三の紹介に、小柳ルミ子が受賞することを願いながら観ていた覚えがある。

「私の城下町」も「瀬戸の花嫁」も日本の良き時代の風情を感じせ、風景の描写で気持ちが伝わってくる名曲だ。歌謡大賞という頂点を極めた後も「漁火恋歌」「冬の駅」などヒット曲を連発した。同じ71年デビューの南沙織、天地真理と「新三人娘」と言われ、愛称はルミちゃん。キャッチフレーズは〝みんなの恋人〟だったが、私にとっては「八重歯がかわいい泣き虫のお姉さん」というイメージがずっとあった。

 デビューから6年目、22枚目のシングルが「星の砂」だった。インパクトの強い歌い出し、一転して穏やかな曲調に変わり、壮大な風景と、悲しい恋物語が伸びのある美しい高音で歌い上げられていた。沖縄の海、石垣島、ブーゲンビリアに思いを馳せ、繰り返し繰り返し聴いているうちに小柳ルミ子のイメージが「運命に挑む女性」に変わった。

「星の砂」の歌さえもすっかり忘れていた頃、節分が明けた寒い時期に、初めて仕事で沖縄を訪れた。偶然、土産物屋さんで瓶詰めにされた「星の砂」を見つけたのだった。そこには〝願いがかなう星の砂〟と書かれてあり、年配の話し上手な店員さんが「星の砂」の伝説も教えてくれた。

 沖縄の白い砂浜は、死んだサンゴや貝殻でできているが、細かい肌色の砂が混じっている。これが、「星の砂」と呼ばれるもので、もともとはアメーバのような単細胞生物(有孔虫)の死んだ殻だというのだ。その「星の砂」を多く採ることができる沖縄県八重山列島には、悲しい伝説がある。黒島から石垣島への強制移住により、恋人と引き裂かれた女性が恋人の住む故郷の島を見ようと、小高い丘に上ったが、さえぎられて叶わず、絶望して山頂の岩と化したというものだ。

「星の砂」は1977年4月25日にリリースされたが、元々は、タレントがオリジナルの曲を作り、歌手が歌って競い合う番組から生まれた。〝星の砂の伝説〟をモチーフにして、関口宏が作詞、作曲は夫婦デュオで知られる「ヒデとロザンナ」の出門英で、由紀さおりが「八重山哀歌」という曲名で歌い、優勝した。同じ番組に出演していた小柳ルミ子がこの曲を大変気に入り、タイトルを「星の砂」にして、歌詞を一部替えてリリースしたものだ。今では冷静沈着な司会者としてのイメージが強い関口宏が、伝説をもとにドラマチックな世界を作り上げたことに、驚かされた。

 小柳ルミ子が歌手を目指したきっかけは、母親の存在だった。音楽学校に行かなければ歌手になれない時代のことで、歌手になりたいという夢を持っていた母親は、泣く泣く断念。結婚して生まれた娘に夢を託した。3歳からクラシックバレエ、ピアノと、歌手になるべく習い事を続けさせ、母と娘は同じ夢に向かって突き進んだのだ。宝塚音楽学校を首席で卒業し、70年NHK連続テレビ小説「虹」でデビュー。翌年念願の歌手としてデビューし、瞬く間に世間が認める受賞を果たした。あの時の母親の涙には積年の思いが詰まっていたのだろう。80年代は、「お久しぶりね」、「今さらジロー」など、杉本真人作詞・作曲のノリの良いロック調の曲でも新たな境地を見せてくれた。

 2月になると小瓶に入った「星の砂」を玄関に飾る習慣になった。日本一早く桜が咲く沖縄の本部町八重丘には寒緋桜が咲いたというニュースを目にした。白い砂浜の「星の砂」もキラキラ輝いているに違いない。

文=黒澤百々子 イラスト:山﨑杉夫

アナログレコードの1分間45回転で、中央の円孔が大きいシングルレコード盤をドーナツ盤と呼んでいた。
昭和の歌謡界では、およそ3か月に1枚の頻度で、人気歌手たちは新曲をリリースしていて、新譜の発売日には、学校帰りなどに必ず近所のレコード店に立ち寄っていた。
お目当ての歌手の名前が記されたインデックスから、一枚ずつレコードをめくっていくのが好きだった。ジャケットを見るのも楽しかった。
1980年代に入り、コンパクトディスク(CD)の開発・普及により、アナログレコードは衰退するが、それでもオリジナル曲への愛着もあり、アナログレコードの愛好者は存在し続けた。
近年、レコード復活の兆しがあり、2021年にはアナログレコード専門店が新規に出店されるなど、レコード人気が再燃している気配がある。
ふと口ずさむ歌は、レコードで聴いていた昔のメロディだ。
ジャケット写真を思い出しながら、「コモレバ・コンピレーション・アルバム」の趣で、懐かしい曲の数々を毎週木曜に1曲ずつご紹介する。

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