〝花の82年組〟と呼ばれる歌手たちがいる。1980年に松田聖子がデビューして以来、歌謡界では次々に10代の歌手たちが登場することになる。なかでも82年には多数のアイドルがデビューを飾り、いずれも個性豊かな魅力を備えていて、人気が高く〝花の82年組〟と呼ばれるようになった。シブがき隊、中森明菜、小泉今日子、松本伊代、早見優、石川秀美、三田寛子と、まさにアイドル豊作の年だった。堀ちえみもその一人である。
堀ちえみは、81年に開催された第6回ホリプロタレントスカウトキャラバンの優勝をきっかけに芸能界入りし、「潮風の少女/メルシ・ボク」でキャニオン・レコードから歌手デビューした。3枚目のシングル曲、竹内まりや作詞・作曲の「待ちぼうけ」で日本レコード大賞新人賞を、石川秀美、早見優、松本伊代と共に受賞。最優秀新人賞はシブがき隊だった。ちなみにレコード大賞を受賞したのは細川たかし「北酒場」だった。中森明菜と小泉今日子が選からもれていたのが、当時、意外な感じがした。
個人的なことで言えば、僕は小泉今日子に注目していて、堀ちえみには全く興味を持っていなかった。堀ちえみのデビューから何年も経ったある日、友人がカラオケで「リ・ボ・ン」という曲を歌った。誰の曲かも知らなかったが、グループ・サウンズの曲を思わせるようなイントロに引き込まれ、誰の曲かを友人に訊ね、はじめて堀ちえみの曲だと知った。「リ・ボ・ン」は堀ちえみの13枚目のシングルで、85年にリリースされている。そこから、堀ちえみの、それ以前の曲を聴くようになった。GSサウンドのようなイントロだと感じた「リ・ボ・ン」の編曲は、「シクラメンのかほり」「木綿のハンカチーフ」などの編曲でも知られる萩田光雄だった。
堀ちえみのディスコグラフィの中で、好きになったのは、83年の5枚目のシングル曲「さよならの物語」と8枚目のシングル曲「夕暮れ気分」だった。「夕暮れ気分」の作曲が僕が好きだった「夕暮れ時はさびしそう」を歌っていたニュー・サディスティック・ピンク(後にNSP)のボーカル天野滋だと知り、さらにこの曲に愛着がわいた。「さよならの物語」は、堀ちえみにとって初めてオリコンの10位内にランクインした曲で、自身最大のヒット曲である。「ザ・ベストテン」「ザ・トップテン」といったランキング番組でも、初の10位内ランクインを果たしている。「リ・ボ・ン」は、オリコン最高位は2位で、「ザ・ベストテン」最高順位は8位と、「さよならの物語」と並ぶ堀ちえみの代表曲となっている。NHK紅白歌合戦に出場したのは、84年で、オリコン最高3位にランクインした「東京Sugar Town」を歌った。この年の初出場組には、小泉今日子、高橋真梨子、舘ひろし、チェッカーズ、芦屋雁之助がいる。