ミュージシャン来生たかおの名を一躍世に知らしめたのは、薬師丸ひろ子が1981年11月21日にリリースしたデビュー曲「セーラー服と機関銃」だろう。この曲は相米慎二監督の同名映画の主題歌で、作曲を来生たかお、作詞を姉の来生えつこが手がけている。発売されるやたちまちオリコンチャートの1位に輝き、5週連続1位の座を維持した。発売前の11月10日には一足早く来生たかおが歌う「夢の途中-セーラー服と機関銃-」がリリースされており、一部歌詞に相違があるが競作シングルとなり、「セーラー服と機関銃」の勢いで、「夢の途中」もランキングを上昇し続け、オリコンチャートでは第4位まで昇り、有線放送では第1位を獲得している。競作のレコードが同時にヒットするのは、珍しかった。
「Goodbye Day」は、その半年前の5月21日に、10枚目のオリジナルシングルとしてリリースされた。作詞・来生えつこ、作曲・来生たかお、編曲・松任谷正隆で、加山雄三、田中好子、近藤正臣らが出演したフジテレビ系ドラマ「愛のホットライン」のタイアップ曲ということも手伝って、有線放送では1位を獲得している。同年7月21日にリリースされた6枚目のオリジナルアルバム『Sparkle(スパークル)』にも収録されている。傍にいる彼女が思う以上の深い愛で彼女に寄り添い、彼女の心を包み込む男の穏やかだが強い愛を感じさせてくれる歌詞、その歌詞を究極の愛に昇華させる都会的なセンスが際立つピアノによる美しい旋律、そしてバラードとして歌い上げる編曲の心地良さで、このトリニティなラブソングは、カラオケでこの曲を歌う男の心を優しくさせてくれる。そして男を気持よく酔わせてもくれる。ひところは、女性の目線で歌う布施明の「そっとおやすみ」と並んで、昭和のカラオケタイムの締めくくりの曲として、僕を含めて男たちはこの歌を選曲したものだ。こんな声で歌えたらどんなに素敵だろう、来生たかおはそんな声で歌っていた。
来生たかおを知ったのは、来生がデビューの翌年に作曲した「マイ・ラグジュアリー・ナイト」によってだった。しばたはつみへの提供曲で、マツダの2代目<コスモ>のCM曲としてテレビで流れていた。高級感と豪華さを押し出した紅いボディカラーのコスモと、CMキャラクターの宇佐美恵子の成熟した大人の女性の魅力、そしてしばたはつみのゴージャスな歌声にぴったりの、まさに〝ラグジュアリー〟な曲で、〝オシャレ〟なメロディラインに魅せられた。しばたはつみは、この曲で77年NHK紅白歌合戦に初出場を果たしている。後に、椎名林檎もステージでこの曲を歌っている。だが、83年にリリースされた提供曲のカバーで構成されたアルバム『Visitor』で、来生自身の歌声で聴いたとき、ほとんどビブラートがかからない淡々とした来生の歌唱により、この曲の風景が鮮やかに浮かび上がった。