1967年10月深夜、そろそろ瞼が重くなってくる時間だのに、眠ってはいられない。大学受験の予習がまだ終わっていないからではない。じっとラジオに耳を傾けているのは軽快なサンバのリズムで始まる『オールナイトニッポン』(ニッポン放送)のテーマ曲が流れるのを、まんじりともせず待っているのだ。午前1時ちょうど、ハール・アルパートのトランペットが聴こえてきた! ~パパパッ!パッパラパパッパー!~ もう参考書やアンチョコ、ノートはそっちのけでラジオに集中する。パーソナリティはDJ(ディスクジョッキー)の草分け・糸居五郎、斉藤安弘、今仁哲夫、高崎一郎、亀渕昭信らが確か曜日ごとにリスナーに語りかけてくれる。それぞれ個性的で名調子、様々な街の話題から分かりやすい洋楽解説とともに、ビートルズが流れサイモン&ガーファンクル、ボブ・ディランだって聴かせてくれる。歌謡曲からポップス&フォークに好みが傾いていた受験生には深夜放送は格好のメディアだったのである。
2023年の今日までつづいている『オールナイトニッポン』の沿革はさておき、放送開始から間もなくオンエアされたのが「帰って来たヨッパライ」(1967年12月25日リリース、東芝音楽工業)だった。当時、どんな経緯があったのか知る由もないが、草創期の『オールナイトニッポン』でしか聴けない楽曲だった。
「お前聴いた? 帰って来たヨッパライ」。朝、顔を合わせる同級生との挨拶代わり。前夜(日付は今日)の『オールナイトニッポン』でザ・フォーク・クルセイダーズの「帰って来たヨッパライ」を聞き逃してしまうと、同級生の会話に入れなくなるような、仲間外れになるような気がした。ニッポン放送の深夜番組しか聴くことができなかっただけに、ラジオにしがみついたのだった。「寝てねーよぉー」と眠い目をこする通学風景があった。
早回しのマンドリンように聴こえる奇妙な前奏から、くぐもった震える声も早回しで歌い出す、オラは~~~、オラは(酔っ払って運転して交通事故で)死んじまった、と東北訛りで白状する。オラの声はまるで〝チコちゃん〟のようなボイスチェンジの早回しで、何度も死んじまっただぁと叫び、泣きべそのように繰り返すばかり。やがてオラは長い雲の階段を登って、天国へ辿り着いたが、そこは、綺麗な姐ちゃんもいるし酒はうまいし、ついつい浮かれてしまう。そうこうしていると怖い神様がゆったりとした関西弁で、怒鳴りつけるのだ。天国ちゅうところはそんな甘いもんやおまへん、と。ところがオラは怒鳴られたのもすっかり忘れて酒浸りがつづき、さすがに堪忍袋の緒が切れた神様はオラを天国から追い出してしまう。この世の叫びとは思えないギャーという不気味な声とともに天国から落下するオラ。我に返ると畑のど真ん中で生き返っていた、という顛末。