23.10.05 update

昭和の幸せな音楽シーンに欠かせない存在だった[ダークダックス]の人生の応援歌「銀色の道」

 昭和の歌謡界に燦然と輝く4人の男声コーラスグループ、ダークダックスの〝ゾウさん〟こと遠山 一さんが9月22日亡くなった、享年93。グループ最後の存命者を失った感慨とともに、彼らが遺した数々の楽曲を口ずさんでいる団塊の世代は多いことだろう。

 ロシア民謡の「ともしび」(1956年)のヒットを皮切りに、「カチューシャ」(同年)、「トロイカ」(57年)と立て続けにヒットを飛ばし、「雪山讃歌」(58年)や「カリンカ」(59年)、「北上夜曲」(61年)、「アンジェリータ」(64年)、「山男の歌」(66年)と、小学生だったボクらにもはっきりとその存在感を植え付けた。60年を超えてもそれぞれの楽曲がしっかりと記憶されているのである。テンポがよく勇ましいような楽曲も、彼らにかかると美しいハーモニーとともに叙情歌のように生まれ変わった。
 一番左を立ち位置にしていたのはトップ・テナーの〝パクさん〟こと高見澤 宏、左から2番目にセカンド・テナーの愛称〝マンガさん〟の佐々木 行、そして四角い顔の〝ゲタさん〟こと喜早 哲がバリトンを受けもち、一番右に立って左手にマイクを持つ〝ゾウさん〟の遠山 一がベースの声を轟かせていた。なにしろ昭和30年代のこと、メンバー全員が慶應義塾大学経済学部出身で同大学の合唱団〝ワグネルソサエティ〟のメンバーという異色の華やかさが〝ハク〟を付けていたし、合唱する姿勢を崩さない生真面目さからは育ちの良さと品性を感じさせ、往時の歌謡界のコーラスブームの火付け役となったのだった。
 当初はロシア民謡やアメリカの黒人霊歌、ジャズなどが中心だったらしいが、古くから歌い継がれてきた日本の唱歌や童謡、山の歌などジャンルを問わず幅広いレパートリーだった。中でも「銀色の道」は、競作とはいえダークダックスのオリジナル楽曲として代表的な作品で1966年に誕生した。NHKの音楽バラエティ『夢であいましょう』の後継番組の『夢をあなたに』で生まれた楽曲で、ザ・ピーナッツとの競作。ダークの4人は同番組にレギュラー出演し、番組構成作家の塚田茂が作詞を手掛け、作曲は宮川泰。初めにテレビ番組内でダークが発表し、ザ・ピーナッツのシングル盤「ローマの雨」のB面曲で発売された。少し後にダークのシングル盤がこの年の10月10日にA面曲となってリリースされたのだ。

 遠い、遠いはるかな道は冬の嵐が吹いているけれども、谷間の春は花が咲いているぞ……と辛い人生の方途を思い煩うな、と自らを叱咤激励する。銀色の道はまだまだはるかに続くが、夜明けは近いぞ、と人生の応援歌を歌い上げているにもかかわらず、4人のハーモニーは静かに心に響くように届いてくる。当時はポップスでもなく流行歌にももちろん演歌にも聴こえない、いわばフォークソングのような楽曲だと思いながら、友達と大声で合唱すると不思議な力が湧いてくるように高揚した。

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