シリーズ/わが昭和歌謡はドーナツ盤
つい先日、NHKの歌謡番組に堺正章が出演して「街の灯り」を歌っていた。そこに、懐かしい映像がインサートされた。大ヒットドラマ「時間ですよ」のワン・シーンだ。番組の終わりに、堺正章演じる銭湯・松の湯のボイラーマンのケンちゃんが、ギターを弾きながら屋根の上で「涙から明日へ」や「街の灯り」を歌うのだが、その隣にいたのが、ケンちゃんの憧れ〝隣のまりちゃん〟こと、天地真理だった。天地真理が僕らの前に顔を見せた最初だった。まだ、歌手デビュー前である。まりちゃんが一人でギターをつま弾きながら歌うこともあって、確か、ポール・モーリアのインストゥルメンタルでヒットした「恋は水色」だったと記憶している。「時間ですよ」での初登場は1971年7月21日で、いきなり脚光を浴びることになった。
同年10月1日、アイドル歌手としてデビュー曲「水色の恋」がCBS・ソニーレコード(現ソニー・ミュージックエンタテインメント)からリリースされ、オリコンチャート最高位3位という大ヒットとなり、同じ年に歌手デビューした小柳ルミ子、南沙織とともに〝新三人娘〟と呼ばれるようになった。キャッチフレーズは〝ソニーの白雪姫〟。2枚目のシングル「ちいさな恋」(安井かずみ作詞、浜口庫之助作曲)はオリコン1位に輝いた。その後も「ひとりじゃないの」(1位)、73年春の選抜高校野球甲子園大会の入場行進曲に選ばれた「虹をわたって」(1位)、「ふたりの日曜日」(3位)、竜崎孝路が日本レコード大賞編曲賞を受賞し、日本レコードセールス大賞ゴールデン賞にも輝いた「若葉のささやき」(1位)、「恋する夏の日」(1位)、「空いっぱいの幸せ」(3位)、「恋人たちの港」(4位)、「恋と海とTシャツと」(8位)と74年までにヒット曲を連発した。
「ひとりじゃないの」の作詞家「小谷夏」とは、「時間ですよ」の演出家である久世光彦の作詞家としての名前である。「市川睦月」名義で作詞した香西かおりの「無言坂」はではレコード大賞を受賞している。「ふたりの日曜日」の平尾昌晃以外は、森田公一がこれらのヒット曲の作曲を手がけている。そして現在のところ最後のオリコンチャートTOP10入りとなったのが、74年9月1日にリリースした11枚目のシングル「想い出のセレナーデ」だった。作詞は、「夜明けのスキャット」「翼をください」「瀬戸の花嫁」「私鉄沿線」でも知られる山上路夫、作曲は森田公一である。オリコンチャート最高位は4位だった。
72年には冠番組となる〝真理ちゃんシリーズ〟もスタートした。「真理ちゃんとデイト」「となりの真理ちゃん」「とび出せ!真理ちゃん」「アタック!真理ちゃん」「はばたけ!真理ちゃん」と、75年まで連続して5シリーズが放送された。73年のプロマイド年間売上枚数が女性部門で1位になり、文房具やトランプなどのキャラクターグッズが多数作られた。さらには、ブリヂストンサイクルから女児向けの自転車「ドレミまりちゃん」も発売され、ヒット商品となり、〝国民的アイドル〟と言える天地真理ブームを巻き起こした。72年の日本レコード大賞では大衆賞を受賞し、子供から大人にまで愛される〝隣の真理ちゃん〟だった。