24.03.21 update

六角精児の弾き語りで蘇った、昭和ポップス界のレジェンド、ムッシュかまやつの「どうにかなるさ」

シリーズ/わが昭和歌謡はドーナツ盤

 俳優にしてギターの弾き語りも達者なエンターテイナー、六角精児さん。映画やドラマでもユーモアのあるユニークな存在感を発揮して大活躍だが、NHKBSの「呑み鉄本線 日本旅」というレギュラー番組を持っている。ともすれば廃線間近のような地方の鄙びた駅に降り立って、その地の名産、銘酒を独り楽しみ旅情をそそる番組である。独り旅だが彼の独特のキャラクターは、地元の人々や居酒屋の店主らからもすぐに受け入れられていつも和気あいあい。見ようによっては葛飾柴又の車寅次郎が、旅先でふらっと近寄って来た感じなのである。

 その彼がアコースティックギターを抱えて歌う特別編番組をたまたま目にしたが、彼自身大好きな楽曲の一つとして、かまやつひろし(ムッシュかまやつ)が昭和45(1970)年にリリースした「どうにかなるさ」(作詞:山上路夫)を披露してくれた。あの日訪れた風景、あの時の列車の窓からの景色が映像でよみがえり、なぜこの歌を選んだか六角さんの心象風景が伝わってくるようだった。「カントリーウエスタン調で、性に合っているというか、僕は好きなんですよ」と言いながらギターを爪弾き出して、決して美声ではないが、その歌いっぷりは彼の人柄そのままで、聞けとばかりの押しつけもなく奥ゆかしさがあり、胸にしみたのだった。

 そうだった、あてのない旅へ。作詞の山上路夫は、青春の一時期誰もが、遠くへ行きたいという感傷の気持ちをたった一言「どうにかなるさ」で掬い取ってくれている。結果、自分を含めて家出を決行した友だちは一人もいなかったが、それより、社会人となって上司に睨まれながら進めていた仕事が二進も三進も行かなくなって逃げだしたい気分の時、フラッと特急列車に飛び乗っていたなんて経験はあった。そんなとき、口を衝いて出てきたのは、「どうにかなるさ」だった。

さぁ、あり金はたいて切符を買っちゃったよ、もう一銭無しだ、これからどうしよう、

まぁどうにかなるさ 

おんなじ暮らしに疲れてさ 俺だってどこかに行きたいよ どうにかなるさ 

仕事もなれたし街にもなれて 未練がないとは言わないが 

それでも行くんだ バカだぜオイラは どうにかなるさ

 

 よくよく聴いてみると、オイラの人生真っ暗、この先どうなるんだ、と暗澹たる気分になってしまいそうな詞が、かまやつひろしの曲に乗ると、投げやりになっているのでもなくどこか新しい未来に進んで行くんだ、みたいに聴こえてくる。夜汽車の行く着く先は、自分を待っている楽しい出来事があるんだ、と期待に胸が膨らむ感じになるのだった。クヨクヨしたって始まらない、どうにかなるさ、と。その歌唱に悲壮感など微塵もない。

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